星降る夜とホットスナック　～かろやかに、サックリと～｜リアクション

星降る夜とホットスナック　～かろやかに、サックリと～

「第一回！　お三夜さま食べて！　おもてなしクッキング　開催でござる！」
　若侍姿の狛猫、狛一之助が、屋台村の一角に設けられた特設キッチンで叫んだ。
「ご参加の皆々様には、このキッチンと食材を自由に使い、星空をモチーフにした料理をお作り下され。ご希望の方には星幽塔のプロ料理人がサポートにつくぞ」
　もう一人の若侍、狛二右衛門は静かに語った。
　その後も企画の趣旨や諸注意などが発表され、ついに修とあおいが呼ばれる時がやってきた。
「参加番号１番！　七夜あおい殿、アシスタントの八神修殿！　参られよ！」
「よろしくお願いしまーす！　修くん、がんばろうね！」
「ハッはい、調理アシスタントの八神修です」
「七夜殿、本日は何をお作りになりますかな？」
「はい、豚汁です！」
　赤い顔で特設キッチンに歩み出て、観客の喝采を浴びるあおいを横目に、修は『なぜこんな事に？』と思わずにはいられなかった。
　
（さっき飲んだ甘酒に、オレンジの星のパワーが入ってたのかなぁ）

　お酒に酔っているかのように、今のあおいはかなり気が大きくなっているらしい。それこそ、修を助手に料理イベントへの参加を即決するくらいには。

（問題ないだろう？　八神修。豚汁くらい、全力を尽くしてサポートするだけさ。プロの料理人だっていてくれるし）

　何せ、あおいの料理はかなり……個性的なので……人によって……意見が分かれる事もあるのだ。
「参加番号２番！　落合まゆら殿！　参られよ！」
「はっ、はい！　今日は、焼きカレードリアを作ります！」
　次に出てきたのは、茶髪をツインテールにした女性だ。アニメの声優のような可愛らしい声がよく通る。
「では、お二方、レッツ・クッキン！」
　若侍の号令を受け、参加者は料理に取りかかった。

◆

　一人暮らしである落合まゆらの食生活は、自炊が多めである。即ち、手順に迷いは無く、淡々と進む。
　ブロッコリーを切ってラップをかけ、レンジで加熱。その間にミニトマトを半分に切る。
　耐熱容器にごはんをよそって、中央をくぼませる。レトルトカレーをかけて、くぼみに生卵を割り入れるのだ。
　その辺りで加熱が終わったブロッコリーと、切ったトマトを盛り付け、上にピザ用チーズをかける。
　あとはオーブントースターで焼くだけだ。

（うわっ、八神さん、すごいな……）

　一息ついたまゆらの目に映ったのは、八面六臂とでも言うべき、修の活躍だ。
　豚肉を切り、にんじんを星の形に型抜きしたかと思えば、鍋の煮干しを引き上げて出汁の味見。あおいの傍に控えながら、彼女が間違った調味料を入れようとすると、星幽塔の料理人とのコンビネーションで彼女の気を引いて、正しい物にすり替える早業。

　――あおいはまったく気づいていない。
　
　完成した豚汁を目にしたお三夜さまは、顔をほころばせた。
「おぉ、この星形のにんじん、かわいいにゃ！　豚の油とお出汁の風味がとけあう、心まで温まる一品だにゃ、ごちそうさま！」
　修と料理人の活躍は報われ、狛猫ともども大満足で完食となった。
　嬉し泣きするあおいに、修はハンカチを差し出している。
　まゆらも、完成したカレードリアを３人の前に運んだ。
「おや、スープの次はご飯かにゃ……おぉぉ、チーズがたっぷりで……はふはふ……カレーと互いを生かしあっておるにゃ。ごちそうさま！」
　一之助に口周りのカレーを拭かれながら、お三夜さまは満面の笑みだ。
「お粗末様でした」
　まゆらも笑顔で挨拶し、ぺこりと頭を下げた。