星降る夜とホットスナック　～かろやかに、サックリと～｜リアクション

星降る夜とホットスナック　～かろやかに、サックリと～

　倉前七瀬は、たまにふらりと夜の散歩に出かけたりする。今日も行き先を考えていると、九夜山がやけに輝いているのが見えた。
「うーむ……これは山に行けという暗示でしょうね」
　てくてく歩いて到着した、九夜山の山頂では。
「ほ、星が降っている……」
　トンガリが５つある定番のお星様が、地面を転がったり跳ねたりしている。
「それに、スケートリンクに屋台、あっちではお料理コンテストも？　こっちを選んで正解でした」
　祭りに興ずる人たちは、皆実に楽しそうだ。
「そこの兄ちゃん、スケートはどうだい？　靴はレンタルしてるぜ！」
「そうですかぁ。せっかくやけん、スケートをしてみます」
　そう声をかけられ、七瀬は挑戦することにした。
「う、うわわ……っと！」
　滑り出したスケートリンクは、三夜湖が凍ったものだ。しりもちをついた七瀬の下では、沈んだ星たちがちかちかと瞬いている。
「……はぁ、ほとんど初心者ですから、しょうがないですね」
　何とか立ち上がってはみるものの、氷上に立つのがやっとという体である。
　いわゆる、生まれたての子鹿のような、というやつだ。
　――それでも。
　七瀬は諦めずに挑戦し続けた。
「うぐぐ……」
　立って転んでを繰り返しているうちに、周りから『あと少しだ！』『いいぞ、今の！』『がんばれっ！』などという声援が聞こえるようになり。
「す、滑れた！　滑れてます、僕！」
　思った方向に移動できるようになった頃には、万雷の拍手に包まれた。
　まぁ、最後は止まり方が分からなくて転んでしまったのだが、周りの人達に助けてもらえたのもいい思い出である。
「はぁ～、運動したらお腹が空きました。何か食べ物を……って、ウォルターさん？　奇遇ですねぇ」
　空きっ腹を抱えて歩く七瀬は、知った顔を見つけた。
「おや、倉前じゃないか」
　肉まんあんまんピザまんを売る屋台、もうもうたる湯気の中で振り向いた金髪の男性は、ウォルター・Bだ。
「さっきスケートをがんばってたねぇ」
「え、僕が転んでたの見てたんですか？」
　七瀬の問いに、笑顔で頷くウォルター。
「それはそれは……カッコ悪いところを……でも、楽しかったですよ」
「だろうねぇ。周りの人たち、握り拳で応援してたし」
　その時、屋台に２人組の客が来て、主がせいろのふたを取った。
「はいはい、肉まんとあんまん一つずつね。え？　半分こしたい？　いいよいいよー、今切っちゃうね」
　半分ずつ持ち帰る客を見て、七瀬はウォルターに提案した。
「あの、嫌じゃなければ肉まんとあんまんを半分こしませんか？　僕、２つはお腹に入らないので」
「……良いアイデアだねぇ。乗った！」
　七瀬は屋台の主にお願いして、半分ずつにしてもらい、ウォルターと食べながら星空の下を歩く。
　比喩でなく、本当に降ってくる星空の下。
　身を切る寒さに抗するほかほかの肉まん、肉汁がぶわっと七瀬の口の中に広がる。
「散歩の途中でスケートにおいしいご飯。なんとも贅沢ですねぇ」
「そうだねぇ。温かいことは何よりのご馳走だ」
「星が綺麗ですね、ウォルターさん」
　そうだね、という声を聞いて。
　七瀬は今日散歩して良かった、とつくづく思ったのだった。

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