【マラソン大会】お花がいっぱい♪ フラワーマラソン！｜リアクション

【マラソン大会】お花がいっぱい♪ フラワーマラソン！

　椎井莉鳥は黙々と走る。いつの間にか、中倉琉歌の姿が見えなくなっていた。
　目で探すようなことはしなかった。腕を振る度に視界を掠めるクリスマスローズには苦々しい顔付きとなった。
　――私の恋は完全に終わったのよ。未練なんか全然なくて、今更、思うことはないわ。
　胸中で否定するとクリスマスローズの存在が途端に大きくなる。首を傾げるような状態で、本当に？　と問い掛けてくるようだった。
「バカバカしい」
　吐き捨てるように言った。
　腕の振りを強くした。尚も視界を掠め、莉鳥は大きく手を振り上げた。クリスマスローズを路面に叩き付ける寸前で思いとどまる。
　――その行動が恋に振り回されている証拠になるわ。
　蔑むような笑みで小さく腕を振った。背筋をピンと伸ばし、遠くの方を見つめた。集中することで周囲の様子も気にならなくなり、単独で走り続けた。
　こまめに水分を補給した。そのおかげで急激に速度が落ちることはなかった。
　ゴールが見えても慌てない。ジョギングするような状態で走り終えた。
　緩やかに足を止めて周囲に意識を向ける。
　――かなりの人数がゴールしているわ。私の順位は中程くらいね。
　冷静に捉えてゆっくりと歩き出す。そこに声を掛けられた。
「先輩、お疲れさまでした」
　琉歌は手にしたタオルを差し出す。莉鳥は受け取ると顔を拭った。
　さっぱりした顔で思ったことを口にした。
「先を行っていたのね」
「私の勝ちですね」
　笑顔で言い切る琉歌に莉鳥は、そうね、とあっさり認めた。
　その直後、空に目をやる。
「空がとても高く見えるわ」
「突然ですね」
「ハイジャンプの時は感じなかった。逆に空がとても身近に思えたわ」
　莉鳥は遠い目となって笑った。目の当たりにした琉歌は同じように空を見る。
「先輩、本当にお疲れさまでした」
「そうね」
　心の籠った言葉を交わし、二人は同じ空を眺めた。