【マラソン大会】お花がいっぱい♪ フラワーマラソン！｜リアクション

【マラソン大会】お花がいっぱい♪ フラワーマラソン！

マラソン本番
　密集した状態から人々は一気に解き放たれた。鮨詰めに近い状態もあって肘や肩が当たる。
　その状況を予想していたのか。光村日向はスタートダッシュを決めた。自由に動ける空間を確保して早いペースを刻む。
　――今はペース配分を考えるよりも予想外のアクシデントを気にしないと。
　力強い腕の振りで飛ばす。先頭集団が目に届く位置で少し速度を落とした。
　――コースの下見は終わっている。ここから先は緩やかな上りなので力を温存して後半に繋げる。
　日向の走りは安定した。集中力も高まり、周りの様子がよく見える。耳まで感度を上げたようで、がんばって、と舌足らずな声が聞こえた。横目で見ると母親に連れられたおさげの女の子だった。
　――妹に応援して貰っているようで力が湧いてくるみたいだ。ありがとう。
　心の中で感謝して日向は前を見据えた。先頭集団から脱落した一人の背中が近くなる。大柄な人物とあって後ろに付けた。
　沿道にある花々の花弁を散らすような風が時に吹く。日向は絶好の風よけとして利用した。
　――少し喉が渇いてきた。給水所まで二キロくらいか。
　気負わず、リラックスして走る。無心に近い状態となった。何故なのか。陸上部での練習の日々が鮮やかに蘇る。
　放課後、第一グラウンドで黙々と周回を重ねた。心の中を空白で埋めて、ただ走ることだけに専念した。どこがゴールなのかわからない。愚直に走り続けた。
　道の右側に給水所が見えてきた。日向は我に返ったようにゆっくりと右に寄る。
　紙コップの水がずらりと並ぶ中、輪の付いたボトルを掴み取る。専用のドリンクで走りながら飲んだ。
　――何か貼り付けてあるけど、これは。

『お兄ちゃんがんばれ』

　子供らしい文字に笑みが零れる。手に握っていたピンクのシクラメンに目を移す。
　――憧れのお兄ちゃんになれるように、まだまだ頑張るからね。
　空になったボトルを沿道に投げ捨てるとペースを上げた。先頭集団に食らい付き、早いペースを維持した。
　沿道で見守る観客の数が増えてきた。送る声援にも熱が籠る。
　日向は策を弄さず、全力の走りに移行した。自ずと口が開く。荒い息は頭の中まで響いた。
　――ろっこんは、使わない。過去や未来を力に変えて、今を走り抜いてやる。
　頭の上下動が激しくなった。フォームが乱れても厭わず、誰よりも先にあるゴールを切望した。
　そしてゴールテープを切った。その先頭集団に続いて日向が飛び込み、上位入賞を果たした。
「お兄ちゃん、今の全力を、出し切ったよ……」
　グラウンドに座り込んだ日向は青い空に向かって微笑んだ。