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ようこそ！ ホビーショップ『クラン＝G』へ！！
鏡に映る自分の瞳が、誰かほかの人間のものに思えてならない。
タールのように黒くて光沢がなくて、作り物のガラス玉のようだ。
君は誰？
鏡のなかの少女に、月原 想花は問いかける。
誰？
シャワーの栓をひねる。猫鳴館の浴場はメンテナンスができていない。目盛りの位置を下回るぬるい湯が、期待の半分もいかぬ勢いでしたたり落ちてきて想花を濡らす。鏡も濡らす。
短い期間に、想花の周囲にはめまぐるしいまでの変化があった。
先日、週刊誌等では『木天蓼大学ボランティアサークル事件』と通称され、ネットではもっと雑に『ULTRA FEEL事件』とか『ウルフィー事件』とか呼ばれる組織的輪姦事件があきらかになった。木天蓼大学を中心としたボランティアインカレサークル『ULTRA FEEL』が、表向きだけ立派な活動実績の裏で主催者十輪田 黄金（とわだ・こがね）を中心とした常習的かつ多数の集団強姦を行っていたのだ。告発者が相次いだこともありすでに二十件に迫る性加害があきらかになっていた。余罪の数はこれからますます増える見込みである。
海外では違法だが日本では野放しだったデートレイプドラッグの使用も確実視されているため、薬事法改正についての議論も巻き起こっていた。
一方で『ULTRA FEEL』は広告代理店など大企業やマスコミとの太いパイプがあったことも判明しており、各社には取材が殺到、さらに同サークル出身者に若手売れっ子俳優がいたこともあって芸能ゴシップ関係者も動き出すなど、話題は多方面にひろがっている。
とんでもないヤツらだと想花も思う。この犯人も共犯どもも、厳罰こそがふさわしい。
しかし想花はただの傍観者ではいられなかった。主犯の十輪田が『Aubry』（オブリ）の常連客だったのだ。想花の親友川上 紗櫻都（かわかみ・しゃるろっと）の母親（※）クレマンティーヌが経営するヘアサロンである。想花も一度となく訪れている。
十輪田との関係があきらかになるや否当然のように『Aubry』は連日取材攻勢にさらされた。そのうえ『特定班』などと名乗る悪意の第三者が店の所在をネットでさらし、これに面白半分のゲス動画配信者が便乗突撃取材するなどした結果、店はSNSを中心に全国的な誹謗中傷のターゲットになってしまった。電凸と称したいたずら電話が連日かかり、脅迫めいたメールまで送られてきた。もちろんクレマンティーヌは十輪田の悪行など知らなかった。店が入っている建物の階上に住む常連というだけの認識だった。なのにまるで加害者の一味であるかのごとく罵声を浴びせられ脅迫までうけ、一時は精神的に参ってしまい休業を余儀なくされたほどである。
しかしその後、寝子島とも縁の深い有名女性弁護士が名乗りを上げ格安の費用で対策を請け負い、悪質な攻撃者にたいしては情け無用の法的措置をバンバン取ってくれたこともあって騒ぎはまたたくまに収まった。元キャバ嬢という異色の経歴をもつ弁護士である。顛末を聞き、失礼ながらこれまで彼女を色モノ弁護士とみなしていた認識を想花はこっそりと改めたのだった。
現在、ネットに巣くう有象無象の悪意は、別の炎上案件にむかっているようだ。
事件により想花が苦しんだ理由は『Aubry』と紗櫻都のことだけにとどまらなかった。
その後の報道により想花は、被害者に少なからぬ幼女が含まれていたことを知ったのだ。未成年というレベルにとどまらない。小学生というのもあった。
まさか――。
想花が心に負った最大の傷、それは八歳のときに受けた性被害だ。
十輪田は木天蓼大学への入学と留年と卒業、さらには二度の再入学を行っており逮捕の時点で二十八歳、現在は二十九歳になるという。つまり想花が八歳の当時、十輪田はすでに大学生だったということになる。可能性は十分ありえた。それに十輪田以外にも同サークルには多数の加害者がある。
想花は一時、学校を休んでまで犯人たちの中に自分を犯した人間がいるか、狂ったように顔写真を検索した。インターネットは残酷だ。報道前のものであろうと顔写真が次々と明らかになった。
「……もし、もしこいつらだったら」
表記できないほどの罵詈雑言と呪詛をつぶやきながら、想花は血眼になってクリックをくり返したものだ。
結局、見つからなかった。
だがこの作業が、想花の精神に過剰なまでの負荷をかけたことはまちがいない。封印していた過去を呼び覚ますことにもなった。
フラッシュバックが起るたびに想花は、何度も風呂に入って身体を執拗に洗った。
このときもそうだった。まだ外の暗い早朝にひとり、無人の浴場で鏡にむかっている。
君は誰？
鏡のなかの少女に問いかけている。
誰？
※正確にいえばちがう。詳しくは本リアクションを参照。８ページの『わだかまり』もこれに起因する。
タールのように黒くて光沢がなくて、作り物のガラス玉のようだ。
君は誰？
鏡のなかの少女に、月原 想花は問いかける。
誰？
シャワーの栓をひねる。猫鳴館の浴場はメンテナンスができていない。目盛りの位置を下回るぬるい湯が、期待の半分もいかぬ勢いでしたたり落ちてきて想花を濡らす。鏡も濡らす。
短い期間に、想花の周囲にはめまぐるしいまでの変化があった。
先日、週刊誌等では『木天蓼大学ボランティアサークル事件』と通称され、ネットではもっと雑に『ULTRA FEEL事件』とか『ウルフィー事件』とか呼ばれる組織的輪姦事件があきらかになった。木天蓼大学を中心としたボランティアインカレサークル『ULTRA FEEL』が、表向きだけ立派な活動実績の裏で主催者十輪田 黄金（とわだ・こがね）を中心とした常習的かつ多数の集団強姦を行っていたのだ。告発者が相次いだこともありすでに二十件に迫る性加害があきらかになっていた。余罪の数はこれからますます増える見込みである。
海外では違法だが日本では野放しだったデートレイプドラッグの使用も確実視されているため、薬事法改正についての議論も巻き起こっていた。
一方で『ULTRA FEEL』は広告代理店など大企業やマスコミとの太いパイプがあったことも判明しており、各社には取材が殺到、さらに同サークル出身者に若手売れっ子俳優がいたこともあって芸能ゴシップ関係者も動き出すなど、話題は多方面にひろがっている。
とんでもないヤツらだと想花も思う。この犯人も共犯どもも、厳罰こそがふさわしい。
しかし想花はただの傍観者ではいられなかった。主犯の十輪田が『Aubry』（オブリ）の常連客だったのだ。想花の親友川上 紗櫻都（かわかみ・しゃるろっと）の母親（※）クレマンティーヌが経営するヘアサロンである。想花も一度となく訪れている。
十輪田との関係があきらかになるや否当然のように『Aubry』は連日取材攻勢にさらされた。そのうえ『特定班』などと名乗る悪意の第三者が店の所在をネットでさらし、これに面白半分のゲス動画配信者が便乗突撃取材するなどした結果、店はSNSを中心に全国的な誹謗中傷のターゲットになってしまった。電凸と称したいたずら電話が連日かかり、脅迫めいたメールまで送られてきた。もちろんクレマンティーヌは十輪田の悪行など知らなかった。店が入っている建物の階上に住む常連というだけの認識だった。なのにまるで加害者の一味であるかのごとく罵声を浴びせられ脅迫までうけ、一時は精神的に参ってしまい休業を余儀なくされたほどである。
しかしその後、寝子島とも縁の深い有名女性弁護士が名乗りを上げ格安の費用で対策を請け負い、悪質な攻撃者にたいしては情け無用の法的措置をバンバン取ってくれたこともあって騒ぎはまたたくまに収まった。元キャバ嬢という異色の経歴をもつ弁護士である。顛末を聞き、失礼ながらこれまで彼女を色モノ弁護士とみなしていた認識を想花はこっそりと改めたのだった。
現在、ネットに巣くう有象無象の悪意は、別の炎上案件にむかっているようだ。
事件により想花が苦しんだ理由は『Aubry』と紗櫻都のことだけにとどまらなかった。
その後の報道により想花は、被害者に少なからぬ幼女が含まれていたことを知ったのだ。未成年というレベルにとどまらない。小学生というのもあった。
まさか――。
想花が心に負った最大の傷、それは八歳のときに受けた性被害だ。
十輪田は木天蓼大学への入学と留年と卒業、さらには二度の再入学を行っており逮捕の時点で二十八歳、現在は二十九歳になるという。つまり想花が八歳の当時、十輪田はすでに大学生だったということになる。可能性は十分ありえた。それに十輪田以外にも同サークルには多数の加害者がある。
想花は一時、学校を休んでまで犯人たちの中に自分を犯した人間がいるか、狂ったように顔写真を検索した。インターネットは残酷だ。報道前のものであろうと顔写真が次々と明らかになった。
「……もし、もしこいつらだったら」
表記できないほどの罵詈雑言と呪詛をつぶやきながら、想花は血眼になってクリックをくり返したものだ。
結局、見つからなかった。
だがこの作業が、想花の精神に過剰なまでの負荷をかけたことはまちがいない。封印していた過去を呼び覚ますことにもなった。
フラッシュバックが起るたびに想花は、何度も風呂に入って身体を執拗に洗った。
このときもそうだった。まだ外の暗い早朝にひとり、無人の浴場で鏡にむかっている。
君は誰？
鏡のなかの少女に問いかけている。
誰？
※正確にいえばちがう。詳しくは本リアクションを参照。８ページの『わだかまり』もこれに起因する。
シナリオ
シナリオデータ
シナリオスケジュール
- シナリオガイド公開日
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- 2024年01月29日
- 参加申し込みの期限
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- 2024年02月05日 11時00分
- アクション投稿の期限
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- 2024年02月05日 11時00分
