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- 学年：職業
- 00月00日生 00歳
- AAA000000
ようこそ！ ホビーショップ『クラン＝G』へ！！
白木の匂い。まあたらしい家具の匂いだ。新築の家の匂いにも似ている。香につつまれているだけで気持ちが落ち着いた。
綾花は家具店にいるのだった。正確には大きなホームセンターの家具フロアだ。椅子、テーブル、ベッド、クローゼット、ソファにカーテン、カーペットなどがそろっている。比較的若い年齢層向けの商品が多く、重厚というよりは軽くてモダン、濃い色使いは少なく単色にして淡色の製品が中心だ。ほとんどが木製で白が多くついでブルー、淡い黄色などが目についた。角がなく丸いデザインが中心なのも嬉しい。モノトーンであっても暖かい印象を受けた。部屋を模したモデルルームのような展示コーナーが複数あり、眺めているだけで夢がひろがる。
珪はまっさきに本棚の売り場に足をむけていた。大型の棚を熱心に観ている。
「珪さんも本棚を買い増すんですか？」
声をかけると彼はぎょっとしたように首をすくめた。「ごめん、ついうっかり」と照れたように笑う。
「買い増す気はないんだ。ただ、本好きとしてはどうしても気になってしまってね」
でもあれなんて、と珪はある展示コーナーを示して言った。
「本棚を部屋の仕切りのように使ってるね。ちょっと憧れるな」
若者の単身住まいを想定したモデルらしい。シンプルだが機能的だ。本もぎっしり蓄積できそうである。
「いいアイデアですよね」
「ご多分に漏れず僕も、本の整理に困るたぐいの人間でね。そろそろ工夫しないと」
地震でもあればと彼は笑う。
「本を墓標にしかねないから」
「本が墓標、ですか？」
「雪崩（なだ）れてきた本の海に埋まって死んでしまうかも、ってこと」
「駄目ですっ」
冗談なのはわかっている。でもつい綾花は真剣に声を上げてしまうのだ。
「古今の名著に埋もれて窒息……ある意味本好きの理想の最期ではあるよ」
「そんなの理想じゃありませんから」
いずれ珪さんのお部屋整理に行かないと――綾花はひそかに思った。
連れだってベッドや整理棚を見に行く。簡単な食卓も。
「データは用意してるんです」
綾花のスマホには部屋の間取りに寸法、撮った写真などが詰まっているのだ。
「準備万端だね」
やがて店員を呼び止めて、「ここはこのぐらいの大きさのソファーがよくて……」といった風に説明しながら選んでいった。
ベッドとテーブルは決まった。つづいてはソファだ。あらゆる選択肢があったが部屋の容量は決まっており予算も、他の家具とのかねあいもある。そこに自身の好みも加味すれば絞り込むのは難しくなかった。
こちらとこちら、とふたつを示して綾花は珪に言った。
「どちらかにしようと思います。どうでしょう？」
「どっちもいいソファだね。値段も高くはないし」
いずれもシンプルながら座り心地がいい。北欧調で余計な装飾がないのも気に入った。肘掛けもやわらかい。すでに綾花の頭のなかでは、自分と珪が両端に腰かけている様子がイメージングされている。もちろんソファの中央で、身を寄せあって座っているところも。
「珪さんはどっちが好みですか？」
「僕かい？ 綾辻さんの部屋じゃないか」
「でも、珪さんの好みが気になるんです。いずれ珪さんも遊びに来てくれるはずだから」
と言ってしばらく考えて、「……遊びに来てくれるんですよね？」とささやくようにつけ足す。
珪は否定したり、ごまかしたりしなかった。
「そうだね。行けたらいいね」
やさしくうなずいて彼は、「僕ならこっちかな」と淡い水色したシートのソファを指さしたのだった。
つづいて家電ショップに移動した。
「炊飯器とか冷蔵庫とか見て回りたいです」
「必需品だね」
寮住まいのころはこういた家電を買うことなど考えたこともなかった。なので最近の炊飯器の多機能ぶりには驚かされる。冷蔵庫だって同じだ。節電なのはもちろん、BluetoothスピーカーやUSB充電口がついている変わり種もあったりするのだ。
「冷蔵庫にスピーカー？ モーツァルトを聴かせると卵がおいしくなるとか……？」
「僕ならバッハにするね。モーツァルトって案外、アバンギャルドな曲が多いから」
数点迷ったものの、結局綾花は大きめの冷蔵庫を選んだ。
「うん、冷蔵庫は大きめのほうがいいよ。独り暮らしだと買い物や料理って億劫（おっくう）だからね。作り置きしておくのがクレバーだと思う」
珪のアドバイスはよくわかる。実際その考えもないではなかった。
けれど綾花は料理好きだ。もうひとつ意図のほうが大きい。
食材がひとり分とは限らないから。
珪さんに料理を作りたいので、冷蔵庫はちょっと大きめにしたかったんです。
その考えを明かそうか明かすまいか、綾花が頭を悩ませているうちに「あとは電子レンジだね」と珪は先に立って歩き出していた。
綾花は家具店にいるのだった。正確には大きなホームセンターの家具フロアだ。椅子、テーブル、ベッド、クローゼット、ソファにカーテン、カーペットなどがそろっている。比較的若い年齢層向けの商品が多く、重厚というよりは軽くてモダン、濃い色使いは少なく単色にして淡色の製品が中心だ。ほとんどが木製で白が多くついでブルー、淡い黄色などが目についた。角がなく丸いデザインが中心なのも嬉しい。モノトーンであっても暖かい印象を受けた。部屋を模したモデルルームのような展示コーナーが複数あり、眺めているだけで夢がひろがる。
珪はまっさきに本棚の売り場に足をむけていた。大型の棚を熱心に観ている。
「珪さんも本棚を買い増すんですか？」
声をかけると彼はぎょっとしたように首をすくめた。「ごめん、ついうっかり」と照れたように笑う。
「買い増す気はないんだ。ただ、本好きとしてはどうしても気になってしまってね」
でもあれなんて、と珪はある展示コーナーを示して言った。
「本棚を部屋の仕切りのように使ってるね。ちょっと憧れるな」
若者の単身住まいを想定したモデルらしい。シンプルだが機能的だ。本もぎっしり蓄積できそうである。
「いいアイデアですよね」
「ご多分に漏れず僕も、本の整理に困るたぐいの人間でね。そろそろ工夫しないと」
地震でもあればと彼は笑う。
「本を墓標にしかねないから」
「本が墓標、ですか？」
「雪崩（なだ）れてきた本の海に埋まって死んでしまうかも、ってこと」
「駄目ですっ」
冗談なのはわかっている。でもつい綾花は真剣に声を上げてしまうのだ。
「古今の名著に埋もれて窒息……ある意味本好きの理想の最期ではあるよ」
「そんなの理想じゃありませんから」
いずれ珪さんのお部屋整理に行かないと――綾花はひそかに思った。
連れだってベッドや整理棚を見に行く。簡単な食卓も。
「データは用意してるんです」
綾花のスマホには部屋の間取りに寸法、撮った写真などが詰まっているのだ。
「準備万端だね」
やがて店員を呼び止めて、「ここはこのぐらいの大きさのソファーがよくて……」といった風に説明しながら選んでいった。
ベッドとテーブルは決まった。つづいてはソファだ。あらゆる選択肢があったが部屋の容量は決まっており予算も、他の家具とのかねあいもある。そこに自身の好みも加味すれば絞り込むのは難しくなかった。
こちらとこちら、とふたつを示して綾花は珪に言った。
「どちらかにしようと思います。どうでしょう？」
「どっちもいいソファだね。値段も高くはないし」
いずれもシンプルながら座り心地がいい。北欧調で余計な装飾がないのも気に入った。肘掛けもやわらかい。すでに綾花の頭のなかでは、自分と珪が両端に腰かけている様子がイメージングされている。もちろんソファの中央で、身を寄せあって座っているところも。
「珪さんはどっちが好みですか？」
「僕かい？ 綾辻さんの部屋じゃないか」
「でも、珪さんの好みが気になるんです。いずれ珪さんも遊びに来てくれるはずだから」
と言ってしばらく考えて、「……遊びに来てくれるんですよね？」とささやくようにつけ足す。
珪は否定したり、ごまかしたりしなかった。
「そうだね。行けたらいいね」
やさしくうなずいて彼は、「僕ならこっちかな」と淡い水色したシートのソファを指さしたのだった。
つづいて家電ショップに移動した。
「炊飯器とか冷蔵庫とか見て回りたいです」
「必需品だね」
寮住まいのころはこういた家電を買うことなど考えたこともなかった。なので最近の炊飯器の多機能ぶりには驚かされる。冷蔵庫だって同じだ。節電なのはもちろん、BluetoothスピーカーやUSB充電口がついている変わり種もあったりするのだ。
「冷蔵庫にスピーカー？ モーツァルトを聴かせると卵がおいしくなるとか……？」
「僕ならバッハにするね。モーツァルトって案外、アバンギャルドな曲が多いから」
数点迷ったものの、結局綾花は大きめの冷蔵庫を選んだ。
「うん、冷蔵庫は大きめのほうがいいよ。独り暮らしだと買い物や料理って億劫（おっくう）だからね。作り置きしておくのがクレバーだと思う」
珪のアドバイスはよくわかる。実際その考えもないではなかった。
けれど綾花は料理好きだ。もうひとつ意図のほうが大きい。
食材がひとり分とは限らないから。
珪さんに料理を作りたいので、冷蔵庫はちょっと大きめにしたかったんです。
その考えを明かそうか明かすまいか、綾花が頭を悩ませているうちに「あとは電子レンジだね」と珪は先に立って歩き出していた。
シナリオ
シナリオデータ
シナリオスケジュール
- シナリオガイド公開日
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- 2024年01月29日
- 参加申し込みの期限
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- 2024年02月05日 11時00分
- アクション投稿の期限
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- 2024年02月05日 11時00分
