睡魔と戦え！｜リアクション

睡魔と戦え！

【乗り越えた者、ヌリ込まれる者】

　トラウマの過去と格闘する者は、まだ残っていた。

「お兄ちゃん、早くおいでよ！」
小さな子が納十一を呼んでいる。
　誰だかは分からない。
　しかし、すごく懐かしい後姿。
　どこを走っているのか、十一自身分かっていない。追いかけずには、いられなかった。
　水の音がする。
　強く打つ音。滝の音。
　涼しいよりは、寒い。
「どうして助けてくれなかったの？」
　追っていた背中は、水音の方へ消えていった。
「何でずっと笑ってるだけだったの？」
　キリで頭に穴をあけられる感覚。痛い。痛い。苦痛に十一は頭を抱える。
「オマエガシネバヨカッタンダ！」

「いやだ……聞きたくない！　もうやめて！」
　声と水音をかき消すように叫ぶ。感情が高ぶると発動する十一のろっこん「植物活性化」。周囲の植物が樹海のように動いている。

　その植物たちの蔓に絡めとられるようにして、小さな睡魔が縛り付けられていた。

　あいつが聞こえる声の主？
　あいつを消せば聞こえなくなるの？

「だったら……消えてなくなれ！」
　尖った枝先が睡魔を串刺しにする。

　次の瞬間、十一は椅子から立ち上がっていた。
「おい、どうした納」
　先生が目を丸くしている。周囲でクスクス笑う声。
「しかもどうした、その顔。お前だけじゃないけど」
　十一の顔は落書きされていた。

　見れば、クラスメイトの大田原いいな、御剣刀の顔にも落書きが。
「うおい、誰だよ落書きしたのー！」
「寝てばっかりのお前が悪いんだよ！」
　教室は大爆笑に包まれる。
　どんな夢見てたか……よく覚えてないや……。
　十一はいつもの明るい十一に戻っていった。

「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ」
　荒息に桜崎巴が振り返ると、屋上出入口から不破ふわりが姿を現した。
「スイマーが……スイマーが……」
　走り続けた不破の目はもはや死にかけている。
「ほう、お前も睡魔に追われているのか。どんな睡魔だい、あたしが飼育してやろう」
「え、ほんと？　もらってくれるの？」
　不破はにわかに元気を取り戻し、桜崎の背中へと回った。
　そして姿を見せる、大量のスイマー睡魔。手にはもちろんウナギ。
「げっ、なんだいあれは……」
「じゃ、よろしくね♪」
　不破が背中を押し、桜崎はスイマー睡魔の群れの中へ。たちまち、テカテカした肉体が桜崎に密着する。
「う、うわやめろ！　やめてくれ！　そこにウナギを入れるんじゃないよ！」
　桜崎の悲鳴が、屋上にこだました……。

　キーンコーンカーンコーン。

　放課後を告げるチャイムと同時に、その生徒はむくりと起きた。教室にいる生徒はまばらで、すでに帰路に着いたもの、部活に向かったものがほとんどだった。
「はーよく寝た」
　今日は一際楽しい夢を見られた気がした。
　西日の差す教室はぽかぽかとしていて、その一日とても心地が良かったことを物語っている。
　春眠暁を覚えず、か。
　有名な故事を思い出しながら言う。
「さてと、帰ってまた寝るか」

　騒動の中心人物が目覚めたことにより、睡魔を倒せず、また誰からも起こされることのなかった弘明寺能美子らも、現実の世界へ戻ることが叶った。
　春のうららかな午後に起きた一連の騒動は、何人かの重い過去を昇華させ、何人かに新たなヌルヌルした過去を植えつけたのだった。

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あとがき

担当マスター：小西秀昭
ファンレターはマスターページから！

　皆様の楽しいアクションのおかげで、物語をたっぷり膨らませることができました！　ありがとうございます。
「色んな人と絡ませてください」とアクションに書いていただいておきながら、あまり交流を描けなかった方、ごめんなさい。僕の力不足です。

　今回は各キャラクターの人間的な面を掘り下げることを重視し、そちらにボリュームをとったため、このようなリアクションとさせていただきました。

　アクションでは過去を丁寧に表現していただいて、皆様のキャラクターに対する思い入れ・愛着を痛感せずにはいられませんでした。これからも皆様からあずかったアクションを大切にし、キャラクターの可能性を引き伸ばせていければいいなと感じる次第です。

　それでは最後に。リアクション中はぽかぽか春日和ですが、現実はまだまだ寒いので、うたた寝でお風邪を引かれぬよう、お大事になさってください。小西秀昭でしたっ！

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