文房具まつりがやってきた！　ふたたび！｜リアクション

文房具まつりがやってきた！　ふたたび！

「文房具まつりかぁ」
　ネットニュースで開催を知った落合まゆらが思ったのは『二度と行く機会がないかもしれない』であった。
　前回は行きそびれたし、何よりも今年の春から東京への転居が決まっているのだ。
「よし！　卒業前にいっちょ楽しんでくるか！」

◆

　開催最終の日曜日。
　会場に繰り出したまゆらが最初に向かったのは『Lapis Lazuli』である。
「幻獣ガラスペン、いったい幾らするんだろう」
　ドキドキしながらショーケースに目をやると、8,000円の文字。
「うわー、高級～」
「でも欲しーい！」
　前に並んでいた女性２人組は「えいっ！」と声に出して番号札を取って行った。
「うぅーむ」
　まゆらも悩む。
　引っ越し前というのは何かと物入りで、あまり無駄遣いは出来ない……とは思ったが。
　３つのうちの一つ、ドラゴンのガラスペンはあまりに魅力的だった。
　照明に透けるペン軸は、冬の厳寒に耐えた芽吹きの緑。端に据えられたドラゴンのフィギュアは、翼をいっぱいに広げ、今にも飛び立つ所だろうか。
　そして、まゆらはエメラルドの色合いが好きな人間だった。っていうか緑色が大好きなのだ。
「ドラゴン買っちゃおうかな」
　番号札を取り、中段と下段に目を移すと、魔道書風ノートとシーリングワックスとスタンプの展示がある。
「うっ……シーリングワックスは高価すぎるのでパス！　代わりに魔道書風ノートを買おうっと」
　魔法使いのコスプレをした店員に番号札を渡し、商品を包んでもらう。

（あんなドラゴンが出てくるアニメの仕事、ゲットできるといいなぁ）

　そう思いながら、次はどこへ行こうかと歩いていると。
「あっ、喫茶店みたいなお店がある！」
『えにし』は店全体が飴色で統一されており、店員は白いシャツに黒ベスト、黒いエプロンの男性だ。
「いらっしゃいませ、お客様。文房具店ですので、コーヒーはお出しできないのですが、どうぞごゆっくり」
「は、はぁ……」
　店員も商品も喫茶店を貫いている、ということらしい。
「これ、可愛いかも」
　手に取ったオムライス型ペンケースの外側は、あくまでふわふわで眩しい黄色。中身は真っ赤で汚れにくい加工済みだ。
　コーヒーゼリーのノートは、最も輝くアングルが計算されているし、ピンク電話マスキングテープは、２０歳のまゆらが話でしか聞いたことのない、昭和という時代を映すアイテムのようだ。並大抵のこだわりではない。
　触って確かめて、ペンケースとノート、マスキングテープの購入を決める。
　店を出た道すがら、合計金額を計算してみる。
「さすがにそろそろ買いすぎたかも……ここは誘惑を振り切らないと！」
　レジエリアへと直行しようとしたまゆら。

　――しかし！

「Ａ５サイズカスタムノート、今ならお待たせしませーん！」
『真澄の鏡』の店員が掲げる、ノートのイラストパネルを見てしまった。
「うっ、あのこたつにこもる猫、かわいいッ！」
　まゆらはどうしよう……と頭を抱え込んだ。
「えーい、こうなったらやけだ！」
　店員のもとへゆき『こたつにこもる猫、横罫線、リングは銀』で注文。
　出来上がったノートを受け取り、意気揚々とレジエリアへ向かった。

（散財はしたかもしんないけど、後悔しないもんね！）