文房具まつりがやってきた！　ふたたび！｜リアクション

文房具まつりがやってきた！　ふたたび！

「さすが、２月開催だと４月始まりの手帳とか日記がたくさん売ってるなぁ」
　鴻上彰尋は、春からの新生活に必要な文房具を求めて寝子電スタジアムを訪れていた。
「うわ、もうすぐ予約の時間だ」
　つい日記の店に行きそうになったが、一番の目的はインクブレンドなのだ。
「ご予約の鴻上さまですね。本日はご来店ありがとうございます」
　出迎えてくれた初老の店員に挨拶し、彰尋は口を開いた。
「お願いしたい色は青です。勿忘草の色に近いんですが」
「かしこまりました。どのようなお色でしょうか」
　彰弘の言葉に、店員は植物図鑑を開き、勿忘草の品種を一つずつ指さして聞いてくれる。
「その……花の鮮やかな色というか……夏の青空のような青さでお願いできたらと」
　彰弘が一つ選ぶと、彼はメモをして、別の本を取り出す。
「では、次は青空の写真集から色を絞ってゆきましょう」
　
　夏祭りの神輿の上に広がる空。
　
　アイスを食べる子供達が見上げる空。
　
　朝顔と、ほんの少しの雲が漂う空。

「参考までに、なぜ青をお望みなのか、伺ってもよろしいでしょうか」
　調色が進み、試し書きをする段になって出てきた店員の問い。
　彰尋が思い浮かべたのは、大切な人の顔だった。
「えっと……僕は頂き物の万年筆を愛用しているんですが、最近つけペンタイプの万年筆を知りまして、新しく購入したんです。せっかくの新品だから、最初のインクは好きな色でと考えまして」
「そうでしたか。大切なインクに当店をお選び頂きまして、ありがとうございます」
　そして、完成したのは晴れ渡る青空のように手が届かぬかと思いきや、傍に咲く可憐な花のような青。
　彰尋は試し書きのペンを置いた。
「……きれいな色ですね。宝物にします」

◆

　彰尋がインクブレンドをしていた頃、佐藤英二もまた会場内にいた。
　文房具まつりにファンタジー雑貨店『Lapis Lazuli』が出店すると聞き、ちょっとした興味から行ってみようと考えたのだ。
「『グリフィンレイク王国物語』の作者さんがファンみたいだけど、どんなお店なんだろう」
　物語の場面を想像しながら店まで辿り着いた英二は、店員が魔法使いのコスプレをしていることに度肝を抜かれた。
「奥の飾り棚にあるのは在庫の魔道書ノートだろうな……在庫を置いているだけなのに、なんか魔法使いの工房みたいだ」
　店内は全て黒を基調にしたディスプレイになっており、ガラスペンや他の商品が輝く仕掛けなのだろう。
　早速幻獣ガラスペンを購入しようと、ショーケース前の列に並ぶ。
　３色どれも捨てがたかったが、幻想的なエメラルド色のドラゴンペンを買うことにした。
「それと、緑色の魔道書風ノート（風属性）にしようかな。ペンとノートがお揃いの方がしっくりくるし」
　老魔道士に番号札を差し出すと、ふぉっふぉっと笑いながら商品を梱包してくれた。
「お買い上げ感謝するぞい、少年。幻想世界にどっぷり浸ってくれ」
　店員にぺこりと頭を下げた帰り道、英二は想像を膨らませた。

（この魔道書とガラスペンを手元に置いてファンタジー小説を読んだら、雰囲気バッチリだろうなぁ。ノートに感想とか、書いちゃおうかなぁ）