文房具まつりがやってきた！　ふたたび！｜リアクション

文房具まつりがやってきた！　ふたたび！

「珪さん、気になる文房具ってありますか？」
「ん？　あそこの、ページをスマホで撮れば、パソコンに取り込めるっていうノート、すごいね」
「カッツェトゥルムっていうメーカーですね。初めて聞きました」
「あぁ。あそこはドイツの老舗なんだけど、アナログとデジタルの融合にも積極的なんだなぁと思ってさ」
　綾辻綾花は、嬉々としてメーカーのうんちくを語る早川珪に、ほっと一安心した。

（喜んでもらえて良かった）

　春から大学に進学する綾花は、新しい文房具が気になるので、珪と一緒に選ぼうとやってきたのである。
　人だかりの中、はぐれないようにと手を繋ぎ、予約しておいた『青猫堂』へと向かう。
　目的のインクブレンドは勿論だが、万年筆を愛用する珪にこの店はぴったりだと思ったからだ。
　初老の店員に予約の旨を告げると、すぐに席に案内してくれた。
「綾辻様、早川様、本日は『青猫堂』インクブレンドをご利用頂きありがとうございます。どのような色をお作りしましょうか？」
　綾花は、別の席で店員と話している珪を見ながら口を開く。
「大事な人へ手紙にも使いたいと思ってまして……その人のイメージで、黒と赤を混ぜてみたいんです」
「かしこまりました」
　店員は、いくつも並んだインク瓶を開け、蓋についたスポイトで小さなビーカーにインクを垂らす。
　分量をメモしてからガラス棒で混ぜると、色が変わった。
「深めの赤……きれいな色ですね」
　試し書きをしながら、色を探ってゆく。
「私の好きな色は青なので、混ぜて深い紫色にしてみたいんです」
「かしこまりました。すみれのような紫でしょうか？　それとも、アメジストのような紫ですかな？」
　店員は、植物や宝石の図鑑を開いて見せてくれる。宝石図鑑のページが進んだとき、その色は綾花の目に飛び込んできた。
「……これです！　この、バイオレットサファイアのような紫色でお願いします」
「承りました。青みの強い紫色ですね」
　それから何度かの試し書きを経て、綾花のブレンドは終了。同じ頃に珪も終わったので、完成までの間、行きたかった『真澄の鏡』を見ることにした。
「珪さんはどんな色にしたんですか？」
　綾花の問いに、ふふっ、と珪は笑う。
「僕？　僕はね、金色に近い明るい茶色だよ」
「何か理由があるんですか？」
「綾辻さんが紫色にするって聞こえたからね。紫を生かし引き立てる色にしようかなと思ったのさ」
　紫の補色は黄色なんだけど、それじゃ文字が読みづらいから、茶色にしたんだ、と続ける。
「あ、あの！　私、珪さんにお手紙書きます！　珪さんもお手紙書いてくれますか？」
　綾花のお願いに対して、珪は黙って手を繋ぎ、人の流れを避けた。
「どうしようかなー」
「んもぅ、珪さんったら」
　そうこうしているうちに『真澄の鏡』に到着したので、店員の配る「カスタムノート注文票」を受け取って記入する。
「良かったね、綾辻さん。限定のサンマさん探偵の表紙、まだ残ってるって。気になってたんでしょう？」
「はい、そうなんです。珪さんはどれにしますか？」
「僕は……犬にするか、猫にするか……紙は方眼で、リングは銅にしようかな」
　２人でうんうん悩み、綾花はサンマさん探偵と、こたつ猫で２冊。珪は雪ではしゃぐ犬の一冊を注文した。
「さ、そろそろインクが出来上がる頃かな？　取りに行こう」
「はい！」
　綾花は心を躍らせながら、差し出された手を取った。

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