文房具まつりがやってきた！　ふたたび！｜リアクション

文房具まつりがやってきた！　ふたたび！

「うん。ちょうどあんな感じの色を作ってもらいましょう」
　ねこったー経由で文房具まつりの開催を知ったマリエッタ・ラシュリエは、寝子電スタジアムの上に広がる青空を見上げて呟いた。
「こんにちは。インクブレンドの予約をしたマリエッタ・ラシュリエですが」
「いらっしゃいませ、ラシュリエ様。本日はご来店ありがとうございます」
　青猫堂に行くと、初老の男性店員が出てきて席に案内され、インクの用途や色味を聞かれる。
「ボストンに留学中の彼氏に手紙を送ろうと思っています。普段はＳＮＳでやりとりしてるけど、たまには手紙を送るのもいいかな、と。色は、仰ぎ見た空の青さが染みるような天藍色でお願いします」
「日本の伝統色ですね。今日の空のような色でしょうか」
　店員の言葉にこくりと頷く。
　テーブルにずらりと並んだインク瓶から近いものを選び、調色してもらう。
「うーん、もっと透き通るような……染みるような青ってどうしたら……」
「このような青でございますか」
　店員が開いたのは、富士山のみを集めた写真集だ。

　冬。晴れ渡る朝の富士山。
　その上には、マリエッタが鳥だったなら、どこまでも飛んでいけそうな青空が広がっている。

「そうそう！　よくお分かりになりましたね」
「恐悦至極に存じます。わたくしが万年筆担当になってから、３０年ほど経ちますので、これくらいは」
　それから、何度かの試し書き、調色を繰り返して完成したインクは。
　見上げた空の向こうに、大切な人がいるのだと感じさせてくれる――そんな、青だった。

◆

　インクを瓶に詰めてもらうまでの間、マリエッタはぶらぶらとその辺を歩いて回る。
『真澄の鏡』という店の、カスタムノートが面白そうだったので入ってみた。
「表紙は雪の庭ではしゃぐ犬、中紙は無地、リングは金でお間違いないでしょうか？」
「はい。それでお願いします」
　店員が機械を操作して、目の前で作ってくれたノートを受け取る。
　そして、他の商品も見てみた。
「わぁ、日本伝統の柄が沢山……」
　さすがは京都の老舗紙問屋、きらびやかな紙ものが目白押しである。
「むむ、折り紙にＡ４の紙、マスキングテープに、御朱印帳！　コンプリートしたい！」
　そんな訳で、透明ショッピングバッグはあっという間にいっぱいになってしまう。
　その上、せっかくインクを作って貰ったのだからとレターセットも追加、『千代紙で作れるおひな様セット』も購入だ。
「お買い上げ、誠にありがとうございました！」
　店員にぺこりとお辞儀をして、マリエッタは店を後にした。
「ふぅ、買っちゃったー」
　ちょっと調子に乗りすぎたかと思いつつ、他の店を巡るのを止められない。
　そして、マリエッタは行き当たってしまった。
『Lapis Lazuli』に。そして、燦然と輝くガラスペンに。
「インクは青だし、ペガサスのペンで書いたら感じ出るだろうなぁ」
　せっかくインクを（以下略）という声にもう抗えない。
「シーリングワックスは……ちょっと凝りすぎかな」
　言葉とは裏腹に、マリエッタの手は初心者セットの番号札に伸びる。
　コバルトブルーのワックスに、月とジャンプするうさぎのスタンプを選択。
「あっ！　そのラベンダーの入浴剤も下さい」
「ほいほい、かしこまりましたぞい。今日は寒い。体を温めて、ぐっすり眠って下さいな、お嬢さん」
　老魔道士に、文房具と一緒に入浴剤も包んでもらう。
　こうして、マリエッタは文房具まつりを満喫したのだった。

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