文房具まつりがやってきた！　ふたたび！｜リアクション

文房具まつりがやってきた！　ふたたび！

　２月のとある日曜日。
　月原想花はコンビニＡＴＭでお金を下ろした足で寝子電スタジアムへ向かった。

（夏休みと年末年始のバイト代を合わせると、結構な額になってたな）

　その３分の１くらいの額が、文房具まつりで想花が想定している軍資金なのだ。
　小説のネタが見つかればいいけど、と思いつつ会場入りして、最初に向かったのは『Lapis Lazuli』だ。
「うわぁ、店員さんがコスプレしてるよ……老魔法使いって感じかな」
　黒い布が敷かれたテーブルの傍で客に商品の説明をしているのは、紫のローブに身を包んだ白髯の老人だ。
　テーブルの横にはショーケースがあり、様々な商品が並べられていた。商品には番号がつけられており、同じ番号札を店員へ渡して取ってもらう仕組みのようだ。
「うわぁ……これがドワーフ職人製（という設定）のガラスペンか。ほんとに軸と透明部分の境に継ぎ目がないな」
　8,000円という値札に、心臓がどきどきしてしまう。
「グリフィンペンは買うとして……ペガサスとドラゴンもいいな……思い切って買っちゃえ！」
　番号札を３つとも取ると、後ろに並ぶ客達から感嘆のため息が聞こえた。
　その下の段に並ぶのは、ハードカバーに金色の魔方陣が箔押しされたＡ５サイズのノートだ。地水火風光闇の６色展開で、開かれて展示された中紙は端が茶色く変色する加工がしてあり、まさに古色蒼然たる魔道書であった。
「2,000円かぁ……地と光にしようかな」
　その次。ケースの下段には、エルフの女性が手紙に封をしている写真と共に、シーリングワックスの道具一式が飾られていた。
　純白のキャンドルに、選べるワックスとスタンプはそれぞれ３種類、金色のメルティングポットは、食品サンプルのように溶けたワックスを注ぐ形で固定されている。

（初心者セット9,500円んん！？　さすがにこれは……でも……まぁ確かに、１つずつ買うよりはお得になってるな）

　想花は悩みに悩んで、ワックスはコバルトブルーを、スタンプは六芒星に羽根ペンの図柄を選んで番号札を取って、店員の前へ歩く。
「いらっしゃい、お嬢さん。幻想世界でのお買い物を楽しんで頂けたようじゃの」
「は、はぁ……おかげさまで」
　彼が朗らかに笑う卓上には、薬草を使った入浴剤や宝石を象ったシール、ドラゴンの鱗（という設定の雲母片）などが所狭しと並んでいる。高価な品物だけがショーケースで展示されているのだろう。
「ところで、お嬢さん。シーリングワックスと一緒に、この羊皮紙風レターセットもどうかね？　コバルト
ブルーのワックスがＳＮＳ映えするぞい」
「こ、これは……っ！」
　老魔道士が差し出すレターセットを、想歌は思わず受け取った。
　便箋と封筒共に、全体的な色は明るいベージュで、端が茶色く変色していている。そして、ファンタジー小説の表見返しにあるような古地図よろしく、端が経年劣化風にカットされているのだ。

（ワックスとスタンプを購入したら、さすがにこれを買わない訳にはいかないな）

　買うと告げると、老魔道士は礼を言って、商品を丁寧に梱包してくれた。
「結局、ガラスペンだけのつもりだったのにたくさん買い物をしちゃったなー」
　店を出た後、ショッピングバッグ中身の合計額と、財布の中身を突き合わせたら、税込みで一応足りると分かってほっとした想歌である。
「さて、後は……他の店を見て楽しむことにするか」
　会場ＭＡＰと周りの店番号を見比べて、想歌は歩き出す。
　幸い、時間だけはたっぷりあるのだ。

このページにイラストを設定する