文房具まつりがやってきた！　ふたたび！｜リアクション

文房具まつりがやってきた！　ふたたび！

「文房具まつり……見てるだけでもワクワクしますねぇ！」
　倉前七瀬は、後ろを振り向いて、ウォルター・Bに声をかけた。
「そうだねぇ。日本中の文房具が集まっているかのようだ」
「海外の文房具もあるそうですよ。ドイツ直輸入、とか」
「へぇー」
　入り口で貰った会場ＭＡＰを広げると、ウォルターが見入ってふんふんと頷いている。
　オリジナルスタンプを作ってくれるブースに行きたい七瀬が誘ったら、一緒に来てくれたのだ。
「あっ、あそこですよ、ウォルターさん。『スタンプシンクタンク』」
　店員のいるテーブルで受付を済ませると、『オリジナルスタンプの作り方』というラミネートカードを渡され、説明を受けた。
　簡単な絵と文字を紙に書いて店員に渡せば、数分でスタンプにしてくれるのだ。奥の方で動いているのは
　レーザープリンターだろうか。
　周りには、他にもイラストに熱中しているお客が数人いる。
「うぅ～ん、ぱぱっと出来上がるみたいだなぁ。最近の技術はすごいねぇ」
「早速僕たちも挑戦してみましょう！」
　店員から紙とペンを受け取り、七瀬は考えながら筆を走らせた。
「おぉ、倉前……かなりゆるーいテイストだねぇ。クラゲかい？」
「ふふん、その通りです。あとは足の下に『たいへんよくできました』……っと。これで完成としましょう」
　いつか教師になった時に使えるように、と考えた図案なのだ。
「クラゲねぇ……青いインクとか、合うかもしれないなぁ」
「いいですね、海っぽくて。あ、ウォルターさんは何を描きましたか？」
「僕かい？　僕はこれさ」
　ウォルターが両の手でぴんと張った紙。
　四足歩行の獣が描かれていて、そのお腹には大きく『ＢＯＯＫ』の四文字が書いてある。
「おお……これは味がありますね……！　ライオン、ですか？」
「もちろんさぁ。ノートに読んだ本を記録しようかなと思っててねぇ」
　通りかかった親子に「あのお兄ちゃん、カバさんの絵だー！」「つ、次、順番来たよ！」と言われていた
のだが、ウォルターは気づかなかったらしい。
　よくよく見てみれば、獣の顔（らしき場所）の周りに線がたくさん描かれているので、雄ライオンのたてがみかもしれない。
「ウォルターさんの絵、僕は好きですよ」
「それはそれは、どうもありがとう。おや、呼ばれているよ」
　店員の元へゆき、紙を渡す。すると、しばらくして樹脂製のスタンプが手渡された。
「よろしければ試し押しはいかがでしょうか？　インクパッドを各色ご用意してございます」
「うわぁ、ありがとうございます」
　店員に案内された試し押しコーナーには紙が用意されていたが、七瀬がスタンプを押したかったのはかつて
ウォルターに贈ったオリジナルノートだ。
「ウォルターさん、ノート持ってますか？」
「ノート？　あぁ、あれのことだね」
　ウォルターからノートを受け取り、表紙を開く。
　用意されたインクパッドから、『わだつみ』というラベルが貼られたものを選んでインクをつけて、クラゲのスタンプをぽんと押す。

『たいへんよくできました』

「ウォルターさんのスタンプも押しませんか？」
「そうだね。ライオンは……この『もみじ』のインクパッドにしようかな」
　青いくらげの横に、ぽんと真っ赤なライオンが現れた。
　くっきりと美しいスタンプを感慨深く眺めたあと、七瀬はウォルターにお礼を言った。
「ウォルターさん、今日は僕に付き合ってくれてありがとうございました」
「いやいや、僕も楽しかったよぉ」
　そして、ノートを鞄にしまってからこう付け加えた。
「倉前の夢への道に、どうか幸いがありますように」

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