授業風景～２年芸術科の場合～｜リアクション

授業風景～２年芸術科の場合～

●仕上げに取り掛かろう

　小さいサイズの作品を5点制作中のシグレ・ナイトウォーカーの絵は、あと少しで完成する。
　フィルムの要領で描かれた絵は、人間とは一味違う猫の視点から見た寝子高の様子。
　猫が見た寝子高の校内外を、透明水彩でぼんやりと、幻想的な雰囲気の日常風景として緻密に描かれている。
（たまには、このような絵も良いものだ。美しいものだけが絵画ではない）

　１枚目は、校門近くの塀の上から、夏服姿の生徒達が登校する様子を間近で見下ろしている時に見える風景。
　２枚目は、プールのフェンス越しに、水と戯れる水着姿の生徒達を眺めている風景。
　３枚目は、教室で、教壇の上に飾られたミニヒマワリを見上げる風景。
　４枚目は、教室の窓から、夏の青空の下で部活をしている生徒を遠くから見下ろす時の風景。
　５枚目は、床に散らばった期末テストの答案用紙に、点々と猫の足跡がついている。
　これだけでは猫の視点とはいえないが、作品のところどころに猫の足跡が描かれているので、職員室に立ち寄った形跡が。
「テストで大騒ぎするのも、うちの学校らしいからな。テーマに沿っているから問題はないだろう」
　時間内に仕上がるかと思ったが、足跡を描くのに思いのほか手間取ったので、居残りして仕上げることに。
「授業中の完成に間に合わなかったか。描くからには、きっちり、パーフェクトに仕上げてやる」
　魂を震わせる美術品を愛し、美意識が高いシグレは、授業の課題制作であっても妥協しない。

　屋上からの景色を描いていた秋ノ宮こまちは、大まかに描いた下書きを丁寧に絵を仕上げている。
　海を背景にした寝子高の屋上で、風景画を描く自分の姿を鉛筆で緻密に描く。
　猫を描きたいという思いを捨てきれなかったので、その代わりに、青い空を飛ぶウミネコを描いた。
「これなら、違和感無いわよね」
　早く仕上がったので、残りの時間を使い、別の何かを描くことにした。
（課題として提出するわけじゃないから、何を描いても良いわよね）
　描くことにしたのは、制作中の生徒の似顔絵。
　本人達に見られるとちょっと恥ずかしいが、モデルの生徒達を見ながら描き始める。

　躍動感ある水泳の授業風景を、アドリブを加えながら透明水彩で着色しているロベルト・エメリヤノフの絵も授業中に完成。
「覚えていることは全部描いた……のはいいけど、何かが違う気がする。描き直そうかな」
　美への飽くなき欲求が表現された絵に仕上がっているように見えるが、ロベルトは納得できないと修正。
「まだ完成していないようだな。居残りで仕上げるのか？　だったら、それまで絵具を貸してやる」
　ロベルトの制作具合を見に来たシグレは、完成していないことを知ると、それまで付き合うことにした。
「シグレ、仕上がるまで、絵具を借りるよ」
「わかった、それまで待つ。俺のほうは、少し手を加えれば仕上がる。仕上がったら見せるよ。お前の絵、盗みたくなるほどの美しさだな」
「何か言ったか？」
「いや、別に」

「あともうちょっとで完成、ってとこかな？　頑張るぞー！」
　書でアスキーアートに挑む種子島タネの絵は、細部を少し仕上げれば完成というところまで進んでいた。
　スクール水着姿の女生徒のみだが、細部まで拘っているので書道以上に精神集中する羽目に。
　その証拠に、束ねた髪や眩い笑顔、体型が精巧なアスキーアートと思える絵に描かれている。
　緻密なものになればなるほど、集中力を要する。
　出来の良い文字を描くより難しいが、それでも楽しそうに制作しているのは前向きなタネの良いところだ。