授業風景～２年芸術科の場合～｜リアクション

授業風景～２年芸術科の場合～

●休み時間

　５限終了のチャイムが鳴ると、何人かの生徒は制作を中断し、絵を見せ合ったり、雑談をしたりと休憩を。

　霧生深雪から借りた楽譜を返しに来た八神修は、美術室に足を運んだ。
「深雪、いるか？」
　美術室のドアを開けると、出迎えたかのようにサティが修の足元に飛びつき、じゃれついてきた。
「サティも授業を受けていた……わけないか。どうしてここにいるんだ？」
「シュウじゃないか。何か用か？」
「これを返しに来た。今日の授業は絵画のようだな。サティはモデルか？」
「まあな。若林先生が連れてきても良いって言ったから、直に見て描くことにしたんだ」
「ミユの絵、見せてみろよ。どこだ？」
　完成してから見せると言ったが、制作中のものを見たいと修がきかないので渋々見せることに。
（タッチが硬いな……）
　そう直感した修は「上手く描こうと思わず、モデルへの気持ちをこめたら？」と軽くアドバイス。
「シュウがそういうのなら。アドバイスありがとう」
「そろそろ、休み時間が終るな。俺は教室に戻るよ。その前に、写真撮って良いか？」
「あ、ああ……」
　新聞部員の修は、いつでも特ダネを撮影できるようデジカメを持ち歩いている。
　デジカメで写真を撮ろうとした時、サティが深雪の肩に飛び乗ろうと背中に爪を立て、よじ登って肩にしがみつく。
「痛っ！」
　シャッターチャンス！　と、修はタイミング良く撮影。
「良いのが撮れたぞ。痛いと言っている割には、表情が緩んでいたな。親馬鹿だな、ミユは」
「……わ、悪かったな！」
「顔が赤くなっているぞ。怒ったミユも可愛いぞ。サティもそう思うだろう？」
　修はサティを撫でた後、からかうように、深雪の頭を撫でる。
「サティは良いけど、俺まで撫でることないだろ！」
「悪かったよ。６限が終ったらまた来る。それまでに完成させろよ？」

　絵の続きの前に、深雪は、周りがどんな絵を描いてるか見て回ることに。
　鷹取洋二の絵が個人的に気になっているので、まずは、彼の絵から。
　彼自身がモデルなのが一目瞭然な絵を見た感想は、ナルシストな鷹取らしいな、ということだった。
　これ以外の感想を言え、と描いている本人に突っ込まれても、このようなことしか言いようがない。
（ふーん、こいつも真面目なとこあるんだな）
　いつになく真剣な表情のロベルト・エメリヤノフに声をかけようとしたが、邪魔をして悪いと声をかけず。

「皆の絵も、きっと素敵なんでしょうね」
　秋ノ宮こまちも、他の皆がどのような絵を描いているか気になり見て回っている。
　休憩することなく、音海なぎさは黙々とパッチワーク作りに集中。
　机に置かれている色とりどりの布端切れは、ジグソーパズルのピースのように見える。パーツが細かいので、細部のこだわりが窺える。
　手前のデフォルメひまわり、右側の水泳の練習が縫い終わったので、左側の陸上部の様子を制作している。
（何も言わずに制作しているわね。話しかけると邪魔になるから、やめておきましょう）

　シグレ・ナイトウォーカーの絵は、ひとりで制作する仕上げる連作だ。１枚ずつ、丁寧に仕上げていく。
「フィルムみたいね。猫の足跡が描いてあるけど、何を意味しているのかしら？」
「それは完成してからのお楽しみだ。できたら見せてやるよ」
「楽しみにしているわ」

　榛名冥は、上手くいかない制作に苦悩中ゆえ、絵筆を持つ手の動きが止まっている。
「榛名さん、大丈夫？」
「だ、大丈夫だよ……。メイ、頑張って仕上げるよ！」
　そう言うが、今にも真っ白に燃え尽きそうな感じだ。冥は無事、絵を完成させることができるのだろうか？