授業風景～２年芸術科の場合～｜リアクション

授業風景～２年芸術科の場合～

●完成！

「できたー！　ふっ、タネちゃん自分の天才っぷりがちょっぴり怖いわ」
　書体を崩したサイン風の名前を細筆で書き込めば、種子島タネの力作、アスキーアート風絵画の完成。
　それと同時に、神経を集中させていたことで蓄積した疲労が一気に吹っ飛び、机に突っ伏してダウン。
　完成したアスキーアートは、前屈みポーズで、ウィンクしながら投げキッスをするグラビアアイドルにような色気があるものだった。
　ビキニであれば胸の谷間を強調できるのだが、スクール水着では、せいぜい胸の大きさしか表現できない。
「この子、かわいいじゃん。モデル誰？」
　どんなものが出来上がったのか気になった安本マコトが、じっくり見ながら訊ねる。
「内緒♪」
　かわいい水着の女の子の絵があると聞きつけた男子生徒数人が、マコトに便乗してタネの絵をじっくり見る。
（こんなに評判良いなんて……タネちゃん、意外だわ）
　ビキニのほうがウケ良かったかも、と、完成した力作を見て、次はそれを描いてみようかと思った。

　水彩画にすることで、柔らかいタッチに仕上がった秋ノ宮こまちの絵も完成。
「屋上から見える海、綺麗に仕上がったわ。猫を描くことができなかったのが残念だったけど」
　描かれているのは、遠い海を見つめながら、屋上で絵を描いているこまち自身とウミネコ。
「優しい雰囲気の絵だね。特に、海の表現が良いよ」
「ありがとうございます、若林先生」
　授業が終わるまでまだ時間があるので、クラスメートのシグレ・ナイトウォーカーの絵を見ることに。
　彼の絵も完成したので、どんなものを描いたのか見せ合おうとこまちが言い出した。
「俺の絵か？　フィルム仕立ての連作だ。タイトルは……猫が通り過ぎた寝子高、だな」
　絵の完成度を気にかけていたこともあり、タイトルを考えるのをすっかり忘れていた。言ったタイトルは咄嗟の思い付きだ。
「猫が１匹も描かれていないのに、それらしい仕上がりになっているのはすごいわ」
「秋ノ宮の絵も、それらしく仕上がっているじゃないか」
　互いの絵を見比べ、出来を評価しあう２人だった。

　筆が思うように進まないと悩んでいたロベルト・エメリヤノフだったが、授業中に完成させることができた。
「先生、できました」
「どれ。綺麗に仕上がったね。上手く描けないと悩んでいる顔をしていたから心配していたけど、無事、完成させたね。ご苦労様」
　描いて良かった、と安心するロベルトは、シグレから絵具を借りていたことを思い出す。
「シグレ、これ、ありがとう。返すよ」
「覚えていたか。お役に立てたようなら何より」
　提出前にチラ見したロベルトの絵は、怪盗ケットシーとして怪盗修行をしているシグレが盗みたいという欲求に駆られるほど完成度が高かった。

「僕もできたよ」
　休み時間を返上し、パッチワーク制作に集中していた音海なぎさの作品も完成。
　九夜山、寝子高のプールとトラック、デフォルメ化ひまわり、音符混じりの空。
　思い描いていたとおり、フリーダムな寝子高を布だけで表現できた。
「すごいじゃないか。パッチワークでテーマを表現するなんて。大変だっただろう？」
「大丈夫です。僕、こういうの好きですから」
　そう言うなぎさの笑顔は、パッチワークのひまわりを連想させるように明るいものだった。

　霧生深雪の飼い猫愛が溢れる水彩画も完成。八神修が放課後にまた来るというので、美術室で待つことに。
「音楽専攻なのに、絵、上手いなー」
　明るく話しかける安本マコトだったが、彼の絵はまだ完成していない。
　制作もしていたのだが、ダベることに夢中になっていたので授業中に仕上がらないのは当たり前である。
「安本くん、きみ、居残りね。頑張って仕上げるんだよ」
「わかってるって、沙穂せんせー。居残りもダベりながら頑張るぜー。榛名もなー」
「うん……」
　２人だけでなく、細部にこだわり過ぎているのが理由で未完成の鷹取洋二も居残りで制作することに。

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