授業風景～２年芸術科の場合～｜リアクション

授業風景～２年芸術科の場合～

●悩みながら

　スムーズに制作している生徒もいれば、頭を捻ってテーマを考えたり、首を傾げながら構図を考える生徒も。
　芸術科といっても、音楽、演劇、絵画と多彩な専攻があるので、全員が絵画が得意なわけではない。

　どちらかというと人物が得意なロベルト・エメリヤノフは、人物が中心になる構図の絵を描くことに。
「寝子高の夏……。夏と言えばプールだよね、水泳だよね！」
　ということで、水泳の授業の様子に。
　プール開きをしたばかりだが、まだ水泳の授業をしていないので去年の記憶を頼りに構図を頭の中で考える。
（絵を描いてる時の僕って、終始、真顔なのどうにかしないとな……たまに怖がられるし。今すぐ直すことじゃないから、このままで良いか）
　自分の表情を気にしつつ、画用紙に下書きを。
　丁寧に仕上げようとすればするほど、思うように仕上がらないので落ち込む。
「……やっぱり僕、才能無いなあ。いや、気持ちで負けちゃだめか」
「妙な真顔で絵を睨んでも、良い絵はできない。ちょっとは肩の力を抜いたらどうだ？」
　ロベルトが苦悩していることに気づいたシグレ・ナイトウォーカーは、リラックスさせようと肩をポンと叩き突っ込む。
「……僕、上手く仕上げようと力が入り過ぎていたみたいだ」
「その通り。絵の具や画材が足りないなら、俺のを貸してやる。あとでちゃんと返せよ？」
「サンキュー。その時は、気が向いたら返すよ」
　表面上はクールだが、心の中では「ちゃんと返せよ」と突っ込んでいる。
　気分が落ち着いたので、休めていた手を動かすことに。
　ロベルトの題材は「授業風景」で、タイトルは「躍動」。
「寝子高の夏か。意外と覚えているんだな……」
　泳ぎきった後の爽やかな顔の生徒、プールサイドで級友と話す生徒、透き通る水面、少年。
　その他、美への飽くなき欲求を前面に押し出して描かれた水彩画の人物は、奇跡的なまでに美男美女だった。
「上手くて堅実、お手本のような絵だけど、どういうわけか、描かれている生徒が美男美女だね。きみの好みなのかな？」
　背後から覗き込んだ若林先生がそう言うので「た、たまたまですよ」と答えた。
　下書きは、5限の半ばに完成。後は着色するだけ。

　榛名冥の絵のタイトルは「灰の扇情」。
　白いワンピース姿の霧生深雪の絵を、灰色と白が溶けたような感じの作品に。
　最初は色の混ざり具合が上手くいき、丁度良い灰色になったので調子良く描けたが、あともう少しで仕上がる段階で何か違う気が。
「むむ、でもなんか思っていたのと違うような。どこがどう違うのかな？　色かな？」
　首を傾げ違和感の原因を一生懸命考えるが、考えれば考えるほど、原因がわからなってきた。
（メイ、燃え尽きそう……）
　創作意欲を失ってしまったのか、項垂れる。
　燃え尽きるのは、絵が仕上がってからにしてください、冥さん。

　別の意味で考え込んでいるのは、静かな雰囲気が苦手な安本マコト。
　絵はそれなりにできているが、ダベりながら授業を楽しみたい彼は息苦しさを感じている。
　真剣に制作に取り組んでいる生徒が多いので、美術室に話声があまり聞こえない。
　聞こえるのは、生徒達の様子を見ては声をかけたり、アドバイスをする若林先生の声くらいだ。
（沙穂ちゃんの声だけじゃつまらないよー。こんなんじゃ制作捗らないよー。楽しくやろうよ、楽しくー）
　冬にカニ食ってる時みたいじゃん。皆、無口じゃん、と季節はずれなたとえをすマコトだった。
（こう考えると、ちょっと寒くなってきた。誰か、何か言ってくれー）