授業風景～２年芸術科の場合～｜リアクション

授業風景～２年芸術科の場合～

●個性を活かそう

「使う書体は、字の崩しが比較的少なく、読みやすく、かつ流れでサクサク書ける行書体かな？　モチーフは、んーそうね……夏ったらやっぱりプール？」
　プール開きで遊んだばかりの種子島タネは、あまりテーマを広げすぎず、プール全体を入れずに済むモチーフが無いものかと考える。
　細部まで凝った絵となると、タネ腱鞘炎のピンチ！　ということになりかねない。
（スクール水着の女生徒をモチーフに、あの作戦を実行しよう！）
　あの作戦というのは、『絵が描けないなら書道でアスキーアートすればいいじゃな大作戦！』と名付けたタネ独特の手法だ。
　普通に筆で描いても面白みがない。
　だったら、得意の書をアレンジして、独創的なものを描けば良いという結論に達した。
　描くものが決まったので、今度はへのへのもへじのような絵にならないよう、気を取り直して描き直す。
　行書体の「水」「泳」といったプールで思いつくあらゆる漢字を盛り込み、太筆、細筆を使い分けて書道の要領で描く。

「斬新な描き方だ。それは人物画かい？」
　絵筆を動かす手を止め、タネの絵を見にきた鷹取洋二が訊ねる。
「この絵はアスキーアートと萌えの共演よ！　ふっ、タネちゃん自分の天才っぷりがちょっぴり怖いわ」
　半紙ではサイズが小さいと、書き初め用紙に描いている。出来上がりは等身大ポスターのようになりそうだ。
　アスキーアートということもあり、漢字だけでなく「つ」「し」「り」といった曲線系のひらがなも組み合わせている。
　女生徒の顔の輪郭、ボディライン、胸の膨らみ等はひらがな。
　髪、目、口といった顔のパーツは漢字と、すべてを細かく、使い分けて描くのはある意味すごい。
「パソコンで作るのも大変なのに、書でそれを実行するとは。たいしたものだ」
「でしょ？　あなたは何を描いているの？」
「僕かい？　寝子島の海だよ」
　キャンバスを見ると、油絵で海を背景に、モデル立ちで前髪をかきあげている水着姿の洋二が描かれていた。
　ワカメのような独特のヘアスタイル、肉体美を誇張表現して。
（これのどこが寝子高の夏？　ナルシストな彼らしい作品ではあるけど）
　そう思うが口にせず。タネは休めていた手を動かし、絵の続きを描き始める。
「水を混ぜて薄めた墨も用意して、アクセント付けようかな。墨汁だけじゃ何だし」
　洋二が次に見たのは、ロベルト・エメリヤノフの絵。
　画用紙に下書きされているが、何度も修正した跡があるので、納得するものが描けていないと思った。
　何を描いているのか気になるが、真剣に制作しているので声をかけられず。
「僕も、自分の絵を仕上げるとしよう」

「夏といえばインターハイだね」
　頭にそれが浮かんだ音海なぎさは、イラストのタイトルを「ワンダフル・サマー・インターハイ」に。
　そうと決まれば、あとは構図を決め、制作にとりかかるだけ。
　奥には、太陽がさんさんの九夜山。
　中間の右は寝子高のプールで、水泳部員が泳いでいる。左はトラックで、陸上部員が走っている。
　手前には太陽の花。デフォルメされたひまわりに。
「中間の部分がメインだから、これを一番大きく作ろう」
　細かいパーツを作ると授業中の完成に間に合わないので、顔は省略したり、単純化したり。
　端切れ布を大量に切っている光景は絵画制作に見えないが、完成すれば、一枚の絵と思える出来上がりに。
「プールの水は青いチェック柄、トラックの土煙はガーゼのような布で。太陽の眩しさは、赤と黄色の布を組み合わせて表現してみよう」
　水の青、土の茶、太陽の赤と黄色と、画材とは一味違う布の表現力で勝負。
　パーツの位置が決まったので、後は、端切れを縫い合わせ、ひとつずつ仕上げるだけに。
「セカイが元気なことを表現するために、音符柄混じりの布で空を覆ってみたりして」
　空の部分を縫い合わせているところに、若林先生が、なぎさの制作具合を見に来た。
「音符は、楽しそうな雰囲気を表現しているのかな？」
「その通り。だって、フリーダムな寝子高を表現するにはぴったりな気がしたから。先生もそう思わない？」
「楽しいのはうちの学校の特徴だからね。制作、頑張るんだよ」
「はい」

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