さよならのむこうがわ～深淵特急『死兆星』の旅～｜リアクション

さよならのむこうがわ～深淵特急『死兆星』の旅～

　
「サイテー……」
「本当に腹が立ちますね」
　姫神絵梨菜も深縹露草も、ちょっとしたことで激昂するような短慮ではない。
「私が昔、ちょっと荒れていた頃の学校を思い出しますよ」
　露草はまだ笑みをたたえているが、目は笑っていなかった。あの頃と同様、内には未だ獅子を飼っている。
　何しろ教室車両における教師たちの傍若無人は目に余った。生徒でろろは一般生徒らが動けないのをいいことに、他者を顧みず暴れ、殴り蹴り、大声で罵倒しやりたい放題だ。少しでも抵抗の意思を見せようものなら暴力教師の教科書が飛ぶ。ぐっしょり濡れた絵梨菜のチアガール服の胸元に透けたブラをじっくり覗き込み、セクハラ教師でろろはにちゃりと粘っこく口元を歪ませながら言うのだ。
「立て。身体検査の時間だ」
「立つかーーーっ！！」
「ごはああああ！！」
　セクハラ教師の顔がひしゃげた。絵梨菜の超音速美脚乱舞が炸裂したのだった。絵梨菜の微笑みの深さはキック力に比例した。ミニスカからちらと覗いた白い布を目にして、セクハラ教師は満足そうに青い光となって消えた。
　露草も立ち上がる。
「なるほど、ようく分かりました。つまり黒白さんの高校生活を、人生を最低にしてるのは貴様等だろうがふざけんなコラァァァァ！」
　椅子をぶん投げる。教団に立つ暴力教師でろろのこめかみへ見事に叩きつけられ、黒い血煙が散った。しかし暴力教師は倒れず、反社会勢力もかくやと凶悪な顔を浮かべて言った。
「腐ってやがる。貴様は手遅れだな、グズグズだ。腐ったミカンは……」
「排除されるのは、あなたのほうよっ！」
　絵梨菜は跳躍し、一足飛びに教壇へ。アクロバティックな空中蹴りをぶちかます。着地様に連打を繰り出すが教師の教科書さばきは華麗なまでに巧みで、全てを受け流す。剣めいた定規の一閃をくぐり腹をめがけ一撃、しかし敵は懐にまで教科書を忍ばせ防御を固めていた。
　反撃の教科書、ご丁寧なことに倫理道徳の本が数冊、ブーメランのごとく放たれ絵梨菜を襲う。
「仮にも教師が、何やってんのよっ！！」
　空気を震わすような大声量だった。薬師寺亜美佳のろっこんが跳ね返した教科書たちが黒板へと突き刺さる。亜美佳も生徒としてこの場にあったが、彼女とて曲がりなりにも現役教師である。教材の無体な扱い、生徒たちへの暴虐を見かねて怒り心頭なのだった。
「教師っていうのはねぇ、生徒のためにあるものよ。教室を支配して、押さえ付けて、あげく暴力を振るおうだなんて言語道断！！」
「ふん。教師にも腐ったミカンが混じっていたようだな。やはり排除せねば、腐食は広がってゆくのだ」
「腐ってるのはあんたの頭よ！」
　飛来する教科書は亜美佳が弾き、怒涛の如き絵梨菜の乱舞が攻め立てる。さらには別角度からの追撃が敵を追い立てた。
「ぬおおおっ！？」
　自らの血液を細く長く縒り上げ、ヴィーゼは一槍を突き入れる。
「生徒と先生の力を合わせて、学校を変えるのよ！　ほら、あなたも」
「あ、ああ。うん、そうだね。これ以上理事長の理不尽に屈してなるものか！　でやっ」
　黒崎教頭も渾身の力で何かを投げつけた。カンペンケースだった。金属の箱は暴力教師の頭にぽこんとぶつかり一応のダメージを与えたようである。
「サニーや寝子島の人々を脅かす敵達の目元よ……光れ！」
「！？　目が、目がー！」
　暴力教師の目が×の字に輝く。露草が手元のスケッチブックへ記した紋章を、ろっこんにてまぶたへ出現させたのだ。こじ開けられた隙に絵梨菜の蹴りが叩き込まれ、ヴィーゼが槍を一閃。斬り裂いた。亜美佳も徒手空拳の技を披露する。昔取った杵柄というやつだ。続けざまに露草は紋章を手近な机に輝かせ、進化した能力を持ってそれを教師の頭上へ浮かせ、落下させた。
「黒白さんの痛みや悲しみを……思い知れ！　オラァッ！！」
「ぐわああああっ」
　