ファイナル・エアーでばばばばばっひゅ～～～ん！｜リアクション

ファイナル・エアーでばばばばばっひゅ～～～ん！

　５月の爽やかな風に乗り、こいのぼり達も空を舞う。巻き込まれた者達もまた、柔らかな日差しの中色とりどりのこいのぼりと共に突然の空中散歩を楽しんでいる。

「ん？　なんだかとってもふわふわしているみたい！」

「大丈夫、俺が支えるから」

　こいのぼりを履いて人魚みたいになっている七夜あおいを、八神修が抱きかかえる。きょとんとしているあおいが愛らしく、少し照れてしまうが修は平静を装いスマートにエスコート。
　修に抱えられたあおいは少しドキドキしながらも、眼下に広がる美しい街並みと、共に舞う色とりどりのこいのぼりに目を輝かせる。
（楽しんでいるようでよかった）
　修はあおいの様子に頬を緩ませながらも、流れ的にお姫様だっこをしている事態に内心ドキドキしていた。もしかしたら、他のメンバーからみたらいつもより初々しさを顔に滲ませているかもしれない。
「いい気持ち……」
「空が晴れていて、風もきもちいいからな。それにしてもこの高度で寒くないのが不思議だな」
　心地よさに瞳を細めるあおい。修は相槌を打ちながらも周囲を見渡し疑問に思った。

「修～！　そんな細かい事は気にしないで楽しもうぜ～！」
　修の呟きが聞こえたのか、酒浸朱蘭が楽し気に笑いながら答え、二人に手を振る。彼女は己のろっこん水で酔いながらも大きくなった瓢箪に乗ってご機嫌だった。傍らの稲井いおねは最初突然始まった空中散歩に面食らったが、慣れてくると「これどうなってるんでしょうね？」と骨柄のこいのぼりを撫でながら楽しんでいた。

（骨がないのに安心感のある座り心地……、不思議ですね）

　骨を愛するいおねは、未知の感触に興味津々である。だが、ちらりと朱蘭をみると、妙に危なっかしく思えた。
「朱蘭さ～ん、落ちないで下さいね？」
「ん－？　こっちは大丈夫、だいじょーぶ！　なんたって瓢箪に乗ってっからな！」
　いおねが声をかけると、朱蘭は高らかに笑って瓢箪を叩き、うまくバランスをとっているようだった。ろっこん水のおかげだろうか？
「十分気を付けて下さいね～」

「おう！　心配してくれてありがとなー！！」

　いおねの言葉に、朱蘭はにっこりと笑って答えた。

「ねぇ、『ｂｏｐ』も一緒に空中散歩出来て楽しい？」

　自分のカプセルギア『ｂｏｐ』に声をかけるのは稲積柚春。傍らには、ウォルター・Bの姿も。

「なんだか、彼もいい顔をしているような気がするね」

「とっても気持ちがいいですから」
　ウォルターが、普段よりちょっと柔らかい笑みでそういえば柚春は胸いっぱいに爽やかな５月の風を吸い込む。清々しい気持ちになりながら、彼女はウォルターと寄り添い、共に『ｂｏｐ』と空を行く。
　『ｂｏｐ』の手には、小さなこいのぼりが握られている。色とりどりの小さなこいのぼりを、『ｂｏｐ』は興味深そうに見ている……気がする。
「落ちないようにね」
　柚春が話しかければ、より強く小さなこいのぼりを握り締めたように見えて。
　『ｂｏｐ』の姿がなんとなく可愛くて、ウォルターと顔を見合わせ、笑い合う。すると、ウォルターは「もう少しこっちに」と柚春をそっと抱き寄せる。
　沢山のこいのぼりと、大切な人と、大切な相棒。
　（これもきっと、かけがえのない時間なんだよね）
　柚春は幸せを感じながらウォルターと『ｂｏｐ』を見つめた。

「見事な五月晴れ。それに、こいのぼりの群れとはな……」

　感心したように片夏阿呂江が辺りを見渡し呟けば、楽しそうな笑い声が聞こえる。赤いこいのぼりに腰かけた鬼河内萌と野菜原ユウである。萌は柏餅を手に空中散歩を楽しんでいた。

「みんなも楽しんでるみたいだね！」

「こんな体験、めったにできないじゃん！」

　ユウは萌が落ちないよう、そっと抱き寄せる。そんな優しさに萌は少しだけ頬を赤くする。
「そうそう。こいのぼりと一緒に空を飛ぶなぞ、夢のようなことなのじゃ」
　阿呂江は風に狐しっぽをなびかせ、楽し気に口元を綻ばせる。萌も楽し気に頷けば、ほんのり冷たさが残る風が首筋を通り抜ける。でも、傍にはユウがいて……。
「そういえば、これってどこまでいけるんだ？」
　ユウがそれとなく疑問を口にするが、萌と阿呂江は気にした様子もなく楽しんでいる。萌はポニーテールを揺らし、「こいのぼりの気分次第？」とぽつり。
「まあ、どこに行くかはわからんが……。今は、この一時を楽しむのじゃ！」
　阿呂江の言葉に、二人は笑顔で「だよね！」と頷いた。

　爽やかな風は、どこまで彼らを運んでいくのだろうか？
　それは、多分、風だけが知っている。