幽霊猫とお化けの国　第四幕：人魚のなく入り江｜リアクション

幽霊猫とお化けの国　第四幕：人魚のなく入り江

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（口の中、か。弱点だとしても、狙って攻撃できる部位じゃないわね）
　タルトから伝わった「口の中の何か」について思案しながら、アリサはカルカドロの隙を伺う。
「っ！」
　とっさに飛び退いたアリサの目の前を、巨大な質量が通過する。波と風圧を生じさせるその勢いは、ダメージなどまったく感じさせなかった。
　ここまでそれなりに攻撃してきたはずなのに、まだこれだ。このまま戦い続けていれば、こちらの体力と集中力が持たない。
（けど、こういう時こそ慎重にならないと）
　サキリとピエロが注意を引いている間に、やや後退。海中のカルカドロの全身を落ち着いて観測できる位置につく。
　もう幾度目か。カルカドロの尾が揺らいだ。
　アリサはその寸前、カルカドロの動きに独特の「粘り」を感じたように思う。今まで感じなかった、あるいは何度も目にしたことでようやく認識できるようになった――、
「っ、の前に！」
　今は、逃げるのが先だ。ぐんと持ち上がった海面に、思考を中断して退避した。

　大波を起こしたカルカドロは、そのまま浮上。ゴーストフィッシュを呼び出そうと、尾ビレを振り上げる。
　鉄色の光が走る。
　次の瞬間、光はカルカドロの尾ビレに突き刺さっていた。光の正体は、一本の槍だ。鋭い穂先が、尾ビレを貫いていた。
（よし、当たった！）
　小さな体いっぱいに槍を抱えて戻ってきた海は、すかさず二本目の槍を投げつけた。
　ペンでその軌跡を追い、『アクセラレイトライン』を発動。描いたラインに沿って加速した槍が、カルカドロの尾ビレに突き刺さる。
　その時、カルカドロの巨体が初めて怯んだ。

　すかさず転移したサキリが、赤光を帯びたカトラスで斬りつける。注意を引きつけた隙に、ピエロが頭上から降下。背ビレをチェーンソーで刻む。
　巨体が旋転する。尾ビレに突き刺さった槍が抜け、吹き飛ぶほどの勢いで。
　たまらず振り落とされたピエロに、尾ビレが直撃。水の石切りめいて海上を吹き飛ぶ彼を追って、サキリは再度転移。
　軌道上に転移したサキリと、ピエロの視線が交錯する。
　吹き飛ばされながら、ピエロは身をひねって足をサキリに向ける。衝突の瞬間に足裏を突き合わせ、互いに蹴る反発でピエロが再び突撃！
　カルカドロが向き直る。

　迎撃させまいと、海が加速させた槍を投げつける。立て続けに飛来する槍に、カルカドロは意識をそちらへ向けざるを得ない。
　強靭な胸ビレが槍を叩き落とすが――
「あら～？　海にゴミを捨てちゃダメじゃないのかし――ら！」
　伸ばした紙で受け止めたメモワが、ゴーストドールたちと共にそれを投げつける。その寸前、メモワが視線を向けたのを海は見落とさなかった。
（こういうことだよね）
　人形たちの投げた槍が加速し、再びカルカドロに襲いかかる！
　
　すぐさま潜水して槍を逃れた怪魚の目玉が、ぎょろりと蠢くのをアリサは捉えた。
　何か仕掛けてくる。そう直感したアリサは、チェーンソーを強く握り直して海中へと飛び込んだ。
　カルカドロの尾が揺らぐ。その刹那に生じた「粘り」を――否、「溜め」の瞬間を、アリサは見逃さなかった。
「今だっ！」
　揺らぎが大波を生む寸前、懐へ飛び込む。狙うのは、カルカドロの体側に薄く走る一筋の線。普通の魚であれば、恐らくエラに相当するであろう部位。
（こんな大きな化け物でも魚は魚、だったら……！）
　チェーンソーをエラへ押し込む。確かな手ごたえを感じるのと同時に、カルカドロの口から血の混じった泡が吐き出された。