幽霊猫とお化けの国　第四幕：人魚のなく入り江｜リアクション

幽霊猫とお化けの国　第四幕：人魚のなく入り江

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　怪魚の視界を遮って飛び回るゴーストドールたちが、大波に散開する。
　その中を、ただ一つ逆走する影がある。それは翼を広げた一羽のミサゴ。その体に憑依したラッセルだ。
　カルカドロの正面でホバリング、挑発するように一声鳴く。
　それに気を取られた隙を突き、前衛組がカルカドロを斬りつけた。
　カルカドロが、束の間ミサゴを視界から外す。瞬間、水中の獲物を狙うが如くミサゴは降下した。
　鋭い爪がカルカドロに触れようかと言う瞬間、急上昇。胸ビレをかわし、カルカドロの視界から完全に外れることなく、ギリギリの距離を保って飛ぶ。
（このまま俺を追ってくりゃ、浅瀬に……！）
　水しぶきと共に、カルカドロが跳んだ。
（やっべ！）
　――今、何か。
　猛禽を一呑みにする大口の奥に、ミサゴの目を通じてラッセルは何かの輪郭を見た気がする。

　目の前で動きを止めた猛禽に、カルカドロが胸ビレを伸ばす。
（これで注意を逸らせるかしら？）
　危ないと、紫苑がカルカドロの背後から銃撃。『死音』によって音もなく放たれた銃弾に、ほんの刹那カルカドロの注意が逸れた。
　目玉と胸ビレが銃撃の主を手繰るが、その時には紫苑は透明化して『死音』を再発動している。そうして潜伏しながら、紫苑は少し考えていた。
（ダメージはあまりなさそうですけど、気を逸らすくらいにはなりますね。このお魚さん、どのくらい鱗が頑丈なんでしょう？　それとも皮が分厚いのかしら？）

　猫のしなやかな動きでタルトが飛び込む。ちょうど我に返ったラッセルのミサゴを胸に抱え、そのままカルカドロの前から逃げ去る。
　カルカドロが再び意識を正面へ向ける頃には、もうミサゴもタルトも居なくなっている。
「ラッセルくん、大丈夫だった？」
「悪ぃ、助かった！　――っとそうだ、話がある！」

　口の中に何かが居た。
　海岸近くへ一時退避したところでラッセルにそう告げられ、タルトが首を傾げる。
「弱点かな？　それとも本体？」
「わかんねーけど、中に飛び込むかいはあると思う！」
「だったら、入れるように僕がラッセルくんをアシストするよ」
「おう、ありがとな！」
　二人のやり取りを聞いていた夏朝が、岩の上に佇むアマキを見やる。
「そいつが本体なら、倒せばアマキさんを……」
　そして二人に向き直ると、拳をきゅっと握り締める。
「僕も手伝うよ。僕のろっこんなら、あごを重くして無理やり口を開けさせることもできるし」
「その手があったか。助かる！」
「そうだ、このことはみんなにも伝えておかないと。それと……アマキさーん」
　カルカドロとの戦いを注視していた人魚が、タルトの首を傾げる。
「カルカドロの口の中について、アマキさんは何か知ってることあるかな？」
「口の中？」
　アマキは少し考え込む素振りを見せた後、すまなさそうに首を横に振った。
「ごめんなさい。何のことだか……」
　彼女曰く、ベースとなったお話では、カルカドロは物語の終幕に現れるのみ。そこで口の中を観察するような機会はなく、だから何もわからないと彼女は言う。
「そっか。ありがとね、アマキさん」
　アマキも知らない。今はそれがわかるだけでも充分だ。