幽霊猫とお化けの国　第四幕：人魚のなく入り江｜リアクション

幽霊猫とお化けの国　第四幕：人魚のなく入り江

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　エラを攻撃されたカルカドロが急速浮上し、跳躍する。その下あごを狙って、夏朝がねこシールを射出した。
　一枚目、水しぶきに阻まれる。
　水しぶきを避けて放った二枚目は、そのせいでかえって逸れた。
　三枚目を放つ寸前、
「とーうっ！」
　タルトが思いきり風船チェーンソーを振り回し、水しぶきを払い除けた。
「響さん、ありがとう！」
　そうして放たれた三枚目のねこシールが、今度こそカルカドロの下あごに命中する。
　『重く軽く』を発動。だが重量を操作するのは下あごではない、カルカドロの体全体だ。
　怪魚の巨体を、めいっぱい軽くする。
「小山内さん！　カルカドロを加速させて！」

　夏朝の呼びかけに、海はつかの間戸惑った。しかしカルカドロの位置に気づいた時、その意図を理解する。
　ペンの描く軌跡に沿って、カルカドロの巨体が冗談のように加速する。
　その先には、岩に挟まれるような浅瀬があった。
　凄まじい水しぶきをあげて、加速させられたカルカドロが浅瀬に着水する。
　カルカドロはしかし、同時に背ビレを叩きつけている。
「うわっ！？」
「きゃっ……！」
　着水の水しぶきを目くらましとして出現したゴーストフィッシュが、矢ぶすまの如く全員に襲いかかった。無数の幽霊魚が、体を貫き斬り裂いていく。
　ゴーストボディでなければ、一瞬で血だるまになりかねない傷だ。
「これはちょっとマズい気が……アマキさーん！」
　タルトの呼びかけに、言葉による返事はない。
　ただ静かで微かな歌声が、手回し式のオルゴールを少しずつ回すように、途切れ途切れに夜へこぼれ落ちていく。
　囁くような歌声は静かな波紋の様に入り江全体へ広がり、皆のもとへ届いていた。傷が柔らかな泡に包まれ、瞬く間に塞がっていく。

「ありがとう、アマキさん！　――これで！」
　今度こそ、夏朝はカルカドロの下あごを重くした。突如増えた重量に抗いきれず、怪魚の下あごががくんと落ちる。
　しかしカルカドロは上あごを押し付けるようにして口を塞ぎ、胸ビレを動かして体を後ろに――即ち海へ戻そうと、
（させないよ！）
　残っていた槍を、海がありったけの勢いで加速させた。
　放たれた槍はほとんどが強靭な胸ビレに弾き飛ばされるが、そのうちの一本が付け根に――これまで幾度となく斬りつけられて出来た傷口に突き刺さる。巨体を縫い留めるには至らないが、動きを鈍らせるには充分。
　その隙があればこそ、
「――えいっ」
　グサリ。
　ろっこんと透明化を解除した紫苑が、目玉に槍を突き立てることができた。
（魚の目玉ってコラーゲンたっぷりで美味しいんですけど）
　少々もったいない気持ちになりつつ、ならばいっそ抉り取ってしまおうかと紫苑は槍を引っこ抜いた。
　片目を潰されたカルカドロが、怒りのままに跳ね暴れる。その時、下あごに押し付けられていた上あごがわずかに持ち上がった。
「メモワさん、頼んだよー！」
「はいはい、やるわよ皆～！」

　タルトの呼びかけに、メモワたちゴーストドールが髪を伸ばした。カルカドロの上あごを絡めとり、持ち上がったまま固定する。
　チェーンソーを構え、タルトがカルカドロの口元へ飛び込む。
「痛かったら手をあげてくださいね、なんてね♪」」
　鋸刃を歯に突き立てる。ガリガリガリと凄まじい音がして、カルカドロの前歯が削り折られた。
　そうしてできた隙間は、人間が通り抜けるには小さすぎる代物。しかし一羽の黄色いカナリアが飛び込むには、充分すぎるほどに大きい。
　『ピヨコ変化』を発動したラッセルが、口の中へ突っ込んだ。

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