幽霊猫とお化けの国　第四幕：人魚のなく入り江｜リアクション

幽霊猫とお化けの国　第四幕：人魚のなく入り江

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（だいたい攻撃手段はわかってきたかな）
　距離を取って観察を続けていた小山内海は、カルカドロの攻撃パターンをある程度つかみつつあった。巨体から繰り出される攻撃はどれも脅威だが、基本的には距離を取っていればある程度安全に戦えるようだ。
　あとは水中と水上、どちらが戦いやすいか。
（大波は大変そうだけど、あれだけなら横にまわるようにすれば……？）
　思案気にカルカドロを観察する海の目が、水中に転移するサキリの姿を捉えた。

　海の闇に輝く赤刃が、カルカドロの脇腹を横一文字に斬り裂く。
　即座に再転移、側面を維持したまま距離を、
　ぐるん。
　カルカドロが振り向いた次の瞬間、不可視の衝撃波が放たれていた。それは海中を揺らすほどの音の波。
「くっ……！」
　サキリの鼓膜が揺さぶられ、意識が撹拌される。刃を構えるように背ビレを立て、怪魚が海中を爆進する。
　その横面に、ピエロが斬りこんだ。顔面にゴーストパワーの刃が食い込み、カルカドロが鬱陶しげに体を叩きつける。
　一秒に満たないか、長くても二秒未満か。そのわずかな間に立て直し、サキリは跳んだ。
赤刃でエラの周辺を斬りつけ、カルカドロを誘ってピエロへの追撃を阻む。
　カルカドロが胸ビレを振るう。直後海中に生じた大渦が、サキリを飲み込もうとした。
「ちいッ！」
　斬空赤刃。50メートル、ギリギリの距離を浅瀬側へ跳んで退避。

　一連の交錯を、海の目はすべて捉えられたわけではない。
　しかしカルカドロが大渦を発生させたこと、その前には放った見えない何かが、距離を取っていたはずのサキリに襲いかかったことは間違いなく理解できた。
（水の中だと、あんなこともできるの？）
　魚だけあって、水中こそがテリトリーということなのだろうか。そうなると、海上を中心として戦ったほうがよさそうだ。
　方針は決まった。海は踵を返し、ラグドール号へと戻る。突撃のための距離を取る船に戻るには、『アクセラレイトライン』で自身を加速させる必要があった。

（あのお魚さん、多芸なんですね）
　海と同じく様子を伺っていた巫部紫苑は、海面ギリギリの高さを漂いながらカルカドロを観察していた。
　するとサキリとピエロが海上へ飛びだし、水面下の巨影がそれを追って浮上してくる。
（離れましょう）
　ふわりと高度を上げる。仲間たちが警戒の声をかけあうのが聞こえてくるが、紫苑に向けられたものはない。というのも、『死音』で自らの発する音を消したうえに、ゴーストボディの特性である透明化を行っているからだ。
　今の紫苑は、目でも耳でも捉えられない。ほぼ不可知の存在だった。
　そのステルス性を利用して、海上に戻ってきたカルカドロの様子を伺いながら、紫苑はまた少しずつ距離を詰めていった。
　前衛を張って戦っている面々の邪魔にならないよう、あえてカルカドロの正面を捉えるようにして近づいていく。
（それにしても、大きなお魚さんですね。何人分くらいになるのかしら？）
　カルカドロを観察する紫苑の目が一瞬、生け簀の魚を見るような雰囲気を帯びる。
　その時、ピエロの背中が視界に大写しとなった。
　紫苑に気付かず、たまたま彼女の居る方へと飛び退いてきたのだろう。ぶつかって邪魔をしてはと、避けるついでにカルカドロへさらに接近する。
　左目の手前。船から拝借してきた槍なら、あと一歩踏み込めば届くほどの至近距離。
　浴びせかけられる攻撃に未だビクともしないカルカドロの目が、何かを探すようにぎょろりと蠢いた。注視すると、どうも紫苑が居る辺りを探っている様子。
（この距離だと、さすがに気付かれるんですね）
　あの巨体に攻撃されては、ひとたまりもない。捕捉される前に、紫苑は上空へと一次離脱する。

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