幽霊猫とお化けの国　第四幕：人魚のなく入り江｜リアクション

幽霊猫とお化けの国　第四幕：人魚のなく入り江

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　ラッセルが口の中に突っ込んでからも、カルカドロは暴れ続ける。
「そ、そろそろ髪が辛いのだけど！？」
　暴れるたびに髪を引っ張られるメモワが、苦し気に呻いたその時だった。
　帆が風を切る音に、皆が夜空を見上げる。帆をいっぱいに広げたラグドール号が、舳先を浅瀬へ――カルカドロへと向けて突き進んでいた！
「ちょっと、早く出ないとマズいわよ！」
　アリサが呼びかけると、歯の隙間から巨大な真珠のような何かが放り出された。それに続いて、カナリアが飛びだす。
　真珠のような何かに目を奪われた皆に、サキリが鋭く呼びかける。
「皆離れろ！　クリストファー、そのまま突っ込め！」
「ゆくぞ、カルカドロ！」
　直後、ラグドール号の船首がカルカドロに叩きつけられた。

　怪魚の巨体をも上回る圧倒的な質量の攻撃に、骨が砕けるような、凄まじい音が響き渡った。衝突の衝撃で、カルカドロが押しつぶされる。
　するとそれに呼応するように、先ほどの「何か」が呻き声をあげた。見ていた面々がぎょっとするなか、「何か」が囁くように声をあげた。
「なぜ、帰そうとする……」
「……どうしてアマキさんを海に帰してあげないの？　どうして閉じ込めたの！？」
　岩から降りてきたアマキが体を強張らせたのに気づいた夏朝が、鋭い口調で問い詰める。わずかな間があってから、ソレは答えた。
「一度陸にあがった人魚は、もう海に馴染めない」
　曰く。もし海に帰ろうものなら、その体は泡のように消えてしまうのだという。だから、帰すわけにはいかなかったのだとソレは言った。
『しってた？』
　皆の視線がアマキに向く中、海がスケッチブック越しに問いかける。するとアマキは、震えるように首を振った。
「……そんなの、知らなかった」
　物語をベースに生まれたアマキが、しかし知らなかった真実。皆が困惑するなか、口を開いたのはタルトだった。
「もしかしたら、誰かがアマキさんのお話に付け足したのかもしれないね？」
　それは例えば、おとぎ話のその後が後世に作られるようなもの。教訓と戒めのために哀しい終わりを迎える物語に、こういう理由があったのだと誰かが語り足した一行。
　真珠の告げた「真実」は、そういうものだったのかもしれない。
『あんしんして』
　見えているかはわからないが、海がスケッチブックを真珠に見せる。
『うみにかえすわけじゃない』
「……そうだね。僕たちはアマキさんを連れて行くけど、それは海へじゃない」
　夏朝の言葉を、ラッセルが拾って続ける。
「それ聞いて連れてくほどバカじゃねーって。……まあ、アマキは辛いかもだけど」
　ラッセルがちらと見やると、アマキはそっと苦笑した。
「不思議とあんまり辛くないわ。海へ帰るのは、もうだいぶ前に諦めていたからかしら」
　あるいはまた誰かが一行付け足せば、アマキが再び海へ帰る日も来るのかもしれないけれど――。
「とにかく、今はこの話はこれでおしまいよ」
　パン、と。アリサが手を叩く。然り、今はこうして終わるより他ないのだから。
「真実が付け足されたものかは別にしても、君は役割を忠実に果たしていた。それに僕は敬意を払うよ」
　サキリがそう声をかけた後、一拍の間を置いて真珠の表面にヒビが入る。
「何か」は、きっと役目を終えたのだろう。

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