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煌々と輝く満月の照らす入り江の上空に、
『クイーン・ラグドール号』は停泊していた。
入り江の端っこ、他よりも一まわり背の高い岩に腰かけた女性に、
クリストファーが呼びかける。
「そこのレディ。吾輩の話を耳に入れてはくれないだろうか」
その声を聞いて初めて気が付いたとばかり、ぴくりと女性の肩が揺れる。
そして彼女は、ゆったりとした動作で振り返った。
「……あら。人が来るなんて、珍しいこともあるものね」
尾びれが岩肌を撫でるのを目の当たりにして、クリストファーと一緒に船を降りていた
響 タルトは「おお?」と目を丸くする。
女性の下半身は、魚のソレだった。いわゆる
人魚と言うやつだ。
「ゴーストにも人魚さんっているんだね。ピエロさん知ってた?」
隣の
ピエロに目を向けると、彼は無言で大仰に肩をすくめて、何度も首を横に振った。
かと思うと、ステージのBGMが聞こえてきそうな、リズム感にあふれた足取りで人魚への足元――尾びれ元?――へ向かおうとする。
「は~い、ダメよ~? 今はクリストファーの話が先なんだから~」
ゴーストドールの
メモワが、髪を伸ばしてピエロの身体を捕まえた。わざとらしいくらいに口を開け、のけぞって驚くピエロ。
そんな様子に、メモワがじっとりした目つきでため息をつく。
「この子、なんで喋らないのにこんなにうるさいのかしら~?」
「まあまあ。ほら、人魚さんも楽しそうだよ?」
一連のやり取りを見ていた人魚は、確かにおかしそうにくすくすと笑っていた。それから、切り替えるようにふっと小さく息を吐く。
「おもしろい人たちね。……それで、何のご用事だったかしら」
クリストファーは、気を取り直したように咳ばらいをひとつ。真摯な眼差しで人魚を見つめ、口を開いた。
「我輩はお化けの国『ゴーストリア』の王子、幽霊猫のクリストファー。故あって――」
と、人魚に向かってこれまでのいきさつを、そして彼女への頼みを口にする。
彼の国ゴーストリアが、凶悪なお化けによって占拠されてしまったこと。
ゴーストリアを取り戻すため、共にゴーストリアへ向かってくれる仲間を集めていること。
そして彼女からは強力なゴーストパワーを感じ取ったため、ぜひ仲間になってほしいこと。
話し終えたクリストファーが、人魚の様子をうかがう。
目を閉じて話に聞き入っていた彼女は、
「……いいわよ」
拍子抜けするくらいあっさりとうなずいた。
目を丸くするクリストファー。それから感謝の思いに瞳を輝かせ、彼は深々と頭を下げた。
「感謝する……! そなたほどのゴーストパワーの持ち主が同行してくれるとは、なんと心強いことか!」
「お礼なんていらないわ。だって……」
ふっと人魚の表情に影がさす。そのまま彼女は、投げやりな眼差しを海へと向けた。
「どうしたの?」
タルトの問いかけに、人魚は海の一点を指して答える。
「あれをなんとかできたら、の話なんだもの」
「あれ?」
タルトたち四人の視線が、人魚の指差した先を見る。
「……な、なんなのよあれ~?」
メモワが心底嫌そうに顔をしかめて、ピエロが身体をくの字に曲げて全身で疑問を表明する。
そこに居たのは、月明りに照らされた波をかきわけて迫る、巨大な異形の魚だった。全長は10メートルほどあろうか。しかも角が生えていて、胸ビレはよく見ると腕のようになっている。
人魚がため息をつく。もう慣れたというように軽く、もう諦めたというように深く。
「あれは
カルカドロ。私をここに閉じ込めるために、ああして海からやってくるの」
「閉じ込める? どうして?」
タルトの問いに、人魚はどこか自嘲気味な笑みを浮かべた。
「そういうお話なの」
それは、陸に焦がれて海を捨てた人魚の物語。結局は陸で生き続けることの叶わなかった人魚は、海に帰ろうとした。
しかし海は、一度故郷を捨てた人魚が戻ってくることを許さなかった。人魚がこの先海に帰ることも、他の何処かへ行くこともできないという罰を受けるように、カルカドロという見張りを立てたのだ。
「要するに、分不相応な憧れを持つなって戒めよね。……で、私とカルカドロは、その話から生まれたゴーストなの」
だから人魚は、カルカドロが居る限り何処にもいけない。連れ出そうとする者はカルカドロに襲われるし、こっそり連れ出したとしてもいつの間にか入り江に戻されてしまうのだという。
「カルカドロはね、見た目通りの化け物よ」
人魚がその先を口にするよりも早く、クリストファーが口を開いた。
「あのカルカドロなる化け物を倒せば、そなたは共にゴーストリアへ向かってくれる。そういうことでよいのだな」
クリストファーの迷いない調子に、人魚は目を瞬かせた。そして、眩しそうに目を細めてうなずく。
「……そういうこと。戦ってくれるなら、私も手伝ってあげる」
人魚の手が、彼女自身のほっそりとした喉に触れる。
「できるのは、歌で癒してあげることくらいだけどね」
「いや、助かる。そなたのゴーストパワーなら、癒しの力も素晴らしいものとなるだろう」
カルカドロを迎え撃つ準備のため、クリストファーはラグドール号へと戻ろうとする。その後を追いかけようとして、しかしタルトは立ち止まって振り返った。
「そういえば。人魚さん、お名前は?」
「ああ……言ってなかったかしら。……アマキ。私はアマキよ」
「アマキさんだね! 僕はタルト、よろしくね♪」
タルトの笑顔に、人魚――アマキは少し面食らったように目を丸くして、それから口元に微かな笑みを浮かべてこう言ったのだった。
「私からのよろしくは、まだお預けよ。……カルカドロを倒してくれたら、ね?」
ハローワールド、風雅です。
大変ご無沙汰しておりました……お化けの国シリーズ、二年越しの第四幕のお届けでございます。
これまでのシナリオにご参加いただいた方はもちろん、今回からの方もぜひぜひご参加ください。
「今回までの間に、いつの間にか船に乗っていた」「実は前回から乗ってたよ」といったアクションももちろん大歓迎です。
このシリーズについて
本シリーズは 幽霊猫とお化けの国を起点とするシリーズシナリオです。
おばけの国『ゴーストリア』で起きた異変の影響で、ゴーストになってしまった皆さん。もとに戻るにはゴーストリアの異変を解決する必要があり、それには各地でゴーストたちを仲間にすることが不可欠です。
ゴーストリアの王子、幽霊猫のクリストファーと共に、各地でゴーストを仲間にしながらゴーストリアの異変解決を目指す――というのが本シリーズの概要となります。
第二幕では孤島に住み着いていたゴーストドールたちを、第三幕ではとある廃遊園地で惨劇の記憶に縛られていたピエロを、それぞれ仲間にすることができました。
概要
着々と仲間を増やしていく『クイーン・ラグドール号』が次にやってきたのは、とある静かな入り江でした。
その入り江に存在するゴーストは、「アマキ」と名乗る独りのゴーストマーメイド。
強力なゴーストパワーを感じ取ったクリストファーの頼みを聞き入れてくれたアマキでしたが、交換条件がひとつ。
それは彼女をこの場に閉じ込めている、一匹の魚の怪物――ゴーストフィッシュ:カルカドロの討伐でした。
クリストファーがアマキをここから連れ出そうとするのを感じ取ったカルカドロは、皆さんに襲いかかってきます。
果たしてカルカドロを撃退し、アマキを仲間にすることはできるでしょうか?
今回の敵はゴーストフィッシュ:カルカドロ。
体長10メートルほどの巨大な魚の姿をしたゴーストです。頭には巨大な二本角が生えており、胸ビレはまるで腕のようになっており、また口の奥に何かが潜んでいるようです。
アマキを連れ出そうとする皆さんを、徹底的に排除しようと襲いかかってきます。
「アマキをこの場所に閉じ込める」という役割を忠実に果たしているだけのため、彼女のことを諦めて逃げる場合、追撃しようとはしてこないでしょう。
なお戦闘は海中~海上が主となりますが、ゴーストボディとなっている皆さんは水中による不利や制限は受けません。
・波起こし
海水を操って波を起こします。
海上はもちろんのこと、海中に対しても有効な攻撃です。
・渦潮
渦潮を発生させます。海中ではもっとも危険な攻撃です。
※上記二つの攻撃は、行う前に「溜め」が必要なようです。
・体当たり
巨体を用いた攻撃は、シンプルに脅威となるでしょう。ジャンプすることで、空中に対する攻撃としても使用します。
・胸ビレ攻撃
胸ビレを腕の様に扱い、殴打を行います。体当たり同様、巨体のパワーが乗っているため単純ながら強力です。
・シャープフィン
鋭利な背びれで斬り裂きます
・海の突撃
尻尾を海面に叩きつけることで、ゴーストフィッシュの群れを呼び寄せて突撃させます。
海中はもちろんのこと、勢いのままに飛びだしてくる群れは海上に対する攻撃としても機能します。
突撃を終えてしばらくすると、ゴーストフィッシュたちは消滅します。
・エコー
口から発した音により、前方の水中を攻撃します。
攻撃力は乏しいですが、まともに受けるとしばらく動けなくなります。
本シリーズの特殊ルール
本シリーズでは、幽霊船の影響によって参加者の皆さんはゴーストとなっています。
ゴーストには以下の特徴があります。
<ゴーストボディの特徴>
・空を飛べる
・物体をすり抜けられる
・生身の人間や生物に憑依できる
・任意に姿を消したり出現したりすることができる
・夜になるにつれて力が増し、昼になると力が弱まる
・ろっこんも使用可能(上記の特徴に似た能力の場合、より強力になる)
・霊体に対しても「物理的に干渉するろっこん」が通用する状態になる
※種族「あやかし」の幽霊とは、使用可能な能力などが異なる場合があります。
※あやかしも、このシナリオには問題なくご参加いただけます。
幽霊は、大きな変化はありませんが、火の玉や冷気を出す能力、ポルターガイストが強力になったり、
憑依能力が使えるようになったりすることもあるようです。
妖怪・付喪神は、ゴーストボディになります。特殊能力などはそのまま使用可能です。
>あやかしとは
NPCについて
・クリストファー
お化けの国『ゴーストリア』から来た、幽霊船『クイーン・ラグドール号』を駆る幽霊猫。
強力なパワーを持つアマキには是非とも仲間に加わってほしいようで、剣と銃の幽霊を手にカルカドロの撃退に全力を尽くします。
・メモワ
人形島から一行に加わったゴーストドールたちのリーダー。
見た目はフリルたっぷりの洋服を着せられた西洋人形ですが、周囲の物体を操る、髪を伸ばして拘束するといった強力なゴーストパワーを操ります。
人形的に水に浸かるのは嫌らしく、もっぱら仲間のゴーストドールたちと共に海上からカルカドロを挑発したり、伸びる髪を使っての皆さんのサポートをおこないます。
・ピエロ
遊園地の廃墟で仲間になったピエロ。言葉は発しませんが、身振り手振りがうるさいです。
解放してくれた皆さんに深く感謝しているため、恩返しにやる気になっています。
風船で作ったチェーンソーを手に、カルカドロに果敢に向かっていくつもりのようです。チェーンソーはちゃんと斬れますし、お願いすると作ってくれます。
・アマキ
強力なゴーストパワーを持つ人魚です。戦闘能力はありませんが、ゴーストパワーを歌声に乗せることで癒しの力を発揮します。彼女の歌声は海中にも届くため、基本的にはその場の全員を回復できると思って構いません。
喉に負担がかかるようで頻繁には歌えませんが、ここぞというタイミングでお願いするのもよいでしょう。
その他、登録済みのNPCなら、特定のマスターが扱うキャラクターを除き、基本的に誰でも登場可能です。
また、Xキャラクターも登場可能です。
口調などのキャラクター設定は、アクションに記載してください。
Xキャラ図鑑に書き込まれている内容は、そのURLだけ書いてもらえれば大丈夫です。
NPCやXキャラクターも、ゴーストになってしまっているかもしれません。
いっしょに冒険を楽しんでください。