お餅が攻めてきたぞっ！｜リアクション

お餅が攻めてきたぞっ！

　――シーサイドタウン・ある日曜日にて。

　楡宮遠海は軽音部所属で、学校外でもガールズバンドに参加している。
　この日も所属するガールズバンド「衝動少女」のため、シーサイドタウンにある貸しスタジオに行こうとして……迷子になった。
「また迷った……いつも使ってるスタジオなのに、どうして……？」
　彼女は規格外の方向音痴だった。寝子高に通うようになって２年になるのに、未だに寝子島の地理に慣れていない。
　一度道を引き返してみようと進んだ道も、何故か路地をひとつ外れた脇道へ入って余計に混乱する。
　こうして現在地不明になってしまった楡宮は、徒労感も加わってか肩に担いだショルダーキーボードの入ったケースがズシリと重い。
　そして歩き回ると……。
「お腹がすいた……」
　そこへテオが脳内に語り掛けてきた。
「えっ？　お餅オバケですって？」
　お餅？　お餅！　お餅食べたい！！
　楡宮の理性はこの瞬間崩壊した。
　すぐにバンドメンバーに連絡を入れ、『やんごとなき急用』が舞い込んだので練習に遅刻する旨を伝える。
　そして目をかっぴらいて鏡餅を探し始めた。
「お餅オバケ、出てきて！」
　空腹に堪らず叫んだ。
　すると……。

「呼んだか！？」

「きゃあっ！」
　いつの間にか背後に立ってた鏡餅に、思わず楡宮は驚いて逃げてしまった。

「通行人がムキマッチョの餅に追いかけられている……幻覚か？　ヤバいな、疲れてるのかな」
　御剣刀は目の前を通過していった謎の真っ白で巨大なナニカに首を傾げた。
　そのまま気に留めず日課の鍛錬を行おうと海浜公園へ向かおうとした、その時だった。

「お餅を　もっと　喰えよ！」

　なんと御剣の背後から筋肉質の手足が生えた巨大な鏡餅が追いかけてきたのだ。
「いや、幻覚じゃない現実だ！　また神魂かよ！　こういうのは何だかんだで事情があるパターンもあるけど、逃げてる人を追いかけ回すのは大体ヤバい奴だ！　ぶった切る！！」
　偶然にも木刀を携帯してた御剣は、振り向きざまに身構える。
　そして気合一閃、上段から勢いよく切っ先を振り下ろした。
「ぐえっ！」
　突っ込んできた鏡餅はきれいに面打ちが入って、ずでんと転げ落ちた。
　ようやく止まった鏡餅へ、御剣は険しい表情のまま木刀を突き付けて怒鳴った。
「何のつもりだ！　人に迷惑かけるな、斬って食っちまうぞ！！」
「申し訳ない！　だが　どうか　斬って喰ってくれ！」
　逆に鏡餅に頼み込まれてしまい、御剣は困惑してしまう。
　話を聞けば、御剣は納得顔で鏡餅へ告げた。
「なるほどな。人に迷惑かけるのは考えものだけど、分かる気がする。とはいえ俺の場合餅とかソーメンって時期的な食べ物って印象が強いんだよな。食べ飽きたと言うより、正月が終わったから餅を食べる期間も終わったって感じで。だから食べる機会があれば食べるよ、餅は普通に美味しいし。大体もち米から出来てるんだから普通のご飯食べるのと大差ないだろう？　餅に飽きたって言うより、餅料理に飽きたって事だよ」
「む　むむむ？」
　なんだか弁論で丸め込まれる鏡餅である。

　そこへ楡宮が合流。
「お餅たくさん食べれる……」
「うお、びっくりした！」
　背後から鬼気迫る楡宮に、御剣はまた驚いた。

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