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- 学年：職業
- 00月00日生 00歳
- AAA000000
あなたがここにいてほしい
いつだって、待ち合わせはそわそわする。
早く来すぎてしまってそわそわする。
それが、最愛の人との待ち合わせならなおさらだよね。
だったらギリギリに行けばいいのかもしれない。それどころか、ちょっと遅れて彼を困らせたいって子もいるかもしれない。
でも僕は、そうじゃない。
むしろそわそわしたいのかも。来るってわかってはいるけど、待ち遠しさのあまり首がキリンになってしまいそうだけど、じりじりそわそわしているからこそ、彼が「待った？」って姿を見せた瞬間の喜びは何倍にも何十倍にもなるんだよ。
早く来ないかな、ワット
でももうちょっと、そわそわしていたい。
矛盾することはわかっているけど、恋ってそういうもんじゃないかな？
なんてね――。
稲積 柚春は口元をほころばせた。
冬空の下で彼を待つ。休日、よく晴れたシーサイドタウン駅前、まだ松の内ということもあり、この小さな島によくもこれだけと言いたくなるほどの人出でごった返している。ずいぶん冷える日だったが、この空間だけは温度が高いように思えた。これからお出かけ風のグループもたくさんだ。家族連れあり中学生らしきグループあり、カップルも老人会もそこここに見られた。
こんなに人がいて見つけてもらえるかな。
きっと大丈夫だよね。背伸びして、今日もめいっぱいお洒落してきたし。
うんと可愛いPコートを着て、おろしたてのニーハイブーツで、寒さにも負けず膝上の絶対領域を確保しつつ、どこか大人っぽさもただよわせる。これが本日の柚春のコーデだ。高校生よりは大学生に見えそうな組み合わせだが、それはデートの相手を意識しているから。
もちろん彼がプレゼントしてくれたピアスはしている。それも右耳だけに。
女性が『好きな異性がいます』と示すには、ピアスを右だけつけるのが良いと知ったのである。穴の開け方を調べていたときに得た知識だ。ピアスをもらったとき、柚春はまだピアス穴を開けていなかった。
ピアスをもらったのは昨年の十月一日、柚春のハーフバースデーだった。もしかしたら、彼にとっては単なる気まぐれで選んだものだったのかもしれない。けれど柚春にとってピアス、とりわけその色は、大きな意味を持っている。
石飾りは青い石だった。ただの青ではない。ロンドンブルートパーズ風のくすんだブルーだ。快晴でもけっして透き通らないロンドンの空、これを彷彿とさせる暗くて深みのある色だった。彼の瞳によく似ていた。
僕の右耳には、彼からもらった彼の色。
ワットを好きでいいって、認めてもらえた気がして嬉しかった。
柚春は右手でピアスにふれる。ひやりとした質感を楽しむ。
ちょうどそのとき、
「柚春」
彼の声がしたのである。
ウォルター・B、柚春の一番大切な人。
そしてウォルターにとっては自分が、一番大切な人であることを柚春は知っている。
「ワット！」
ふたりきりのときは『ワット』『柚春』と呼び合うようになっていた。
それでもまだ、ふたりは正式な恋人同士ではないのだ。教師と生徒という線引きをウォルターが重んじたからだった。学校、それも人前ではかならず『ウォルター先生』と『稲積』だ。それも、名刺に印刷された文字を音読するように特別の感情を込めずに呼ぶ。特にウォルターは意識しているようだ。
先月、柚春はウォルターに告白して、彼と互いに同じ気持ちであることを確かめあった。夢みたいだと思ったものだ。だけど夢はずっと覚めない。つまり現実ということだ。
でも彼の返答は、ちょっとずるいよねと柚春は思う。
「柚春が……ちゃんと、女性として好きだから『今は』付き合えないんだ」
あの日、大人として教師として、そして何より年長の男性として、ウォルターは柚春に責任ある言葉を告げた。鉄の鎖のように硬い宣言だった。柚春の卒業、春の訪れとともに鎖が雪のように溶けるまであと一年と少々ある。柚春にとっては気が遠くなるほど長い時間だが、「過ぎ去ってみれば一瞬だったと思うはずだよ」と彼は言っている。
両想いとわかったいまでさえ、学校ではこそこそと隠れるように視線を交わしあうのがせいぜいなのだ。もし高校卒業の日が来ても、本当に彼と自分は恋人同士になれるのだろうか。信じてはいるけれど、柚春の不安もゼロではなかった。
だからよかったのかも。
ワットが言ったように、本当に付き合っていたとしたら、堂々とできないことにもっと不安を感じてたかもしれないから。
けれどウォルターの声は明るく、柚春の心にさしたを薄墨のような影をたちまち消し去ってくれた。
「待った？」
「ううん、全然っ」
ふたりのデートにおいてこのやりとりも定番化しつつあったが、それでも毎回、言葉をかわすたび柚春は震えるような喜びを感じている。
柚春を震わせたものが、もうひとつあった。
僕の瞳色のピアス。
ワット、今日も付けてくれてる。
それも――。
ウォルターの耳にはピアスがある。飾り石は柚春の瞳の色、暗い場所では深縹（こきはなだ）に、明るい場所では青藍に近い藍色だった。彼のハーフバースデー、十一月三日に柚春が贈ったものだった。
彼がピアスをしているのは左耳だ。右耳は空いていた。
男性の場合、これが『好きな異性がいます』の徴（しるし）になる。
早く来すぎてしまってそわそわする。
それが、最愛の人との待ち合わせならなおさらだよね。
だったらギリギリに行けばいいのかもしれない。それどころか、ちょっと遅れて彼を困らせたいって子もいるかもしれない。
でも僕は、そうじゃない。
むしろそわそわしたいのかも。来るってわかってはいるけど、待ち遠しさのあまり首がキリンになってしまいそうだけど、じりじりそわそわしているからこそ、彼が「待った？」って姿を見せた瞬間の喜びは何倍にも何十倍にもなるんだよ。
早く来ないかな、ワット
でももうちょっと、そわそわしていたい。
矛盾することはわかっているけど、恋ってそういうもんじゃないかな？
なんてね――。
稲積 柚春は口元をほころばせた。
冬空の下で彼を待つ。休日、よく晴れたシーサイドタウン駅前、まだ松の内ということもあり、この小さな島によくもこれだけと言いたくなるほどの人出でごった返している。ずいぶん冷える日だったが、この空間だけは温度が高いように思えた。これからお出かけ風のグループもたくさんだ。家族連れあり中学生らしきグループあり、カップルも老人会もそこここに見られた。
こんなに人がいて見つけてもらえるかな。
きっと大丈夫だよね。背伸びして、今日もめいっぱいお洒落してきたし。
うんと可愛いPコートを着て、おろしたてのニーハイブーツで、寒さにも負けず膝上の絶対領域を確保しつつ、どこか大人っぽさもただよわせる。これが本日の柚春のコーデだ。高校生よりは大学生に見えそうな組み合わせだが、それはデートの相手を意識しているから。
もちろん彼がプレゼントしてくれたピアスはしている。それも右耳だけに。
女性が『好きな異性がいます』と示すには、ピアスを右だけつけるのが良いと知ったのである。穴の開け方を調べていたときに得た知識だ。ピアスをもらったとき、柚春はまだピアス穴を開けていなかった。
ピアスをもらったのは昨年の十月一日、柚春のハーフバースデーだった。もしかしたら、彼にとっては単なる気まぐれで選んだものだったのかもしれない。けれど柚春にとってピアス、とりわけその色は、大きな意味を持っている。
石飾りは青い石だった。ただの青ではない。ロンドンブルートパーズ風のくすんだブルーだ。快晴でもけっして透き通らないロンドンの空、これを彷彿とさせる暗くて深みのある色だった。彼の瞳によく似ていた。
僕の右耳には、彼からもらった彼の色。
ワットを好きでいいって、認めてもらえた気がして嬉しかった。
柚春は右手でピアスにふれる。ひやりとした質感を楽しむ。
ちょうどそのとき、
「柚春」
彼の声がしたのである。
ウォルター・B、柚春の一番大切な人。
そしてウォルターにとっては自分が、一番大切な人であることを柚春は知っている。
「ワット！」
ふたりきりのときは『ワット』『柚春』と呼び合うようになっていた。
それでもまだ、ふたりは正式な恋人同士ではないのだ。教師と生徒という線引きをウォルターが重んじたからだった。学校、それも人前ではかならず『ウォルター先生』と『稲積』だ。それも、名刺に印刷された文字を音読するように特別の感情を込めずに呼ぶ。特にウォルターは意識しているようだ。
先月、柚春はウォルターに告白して、彼と互いに同じ気持ちであることを確かめあった。夢みたいだと思ったものだ。だけど夢はずっと覚めない。つまり現実ということだ。
でも彼の返答は、ちょっとずるいよねと柚春は思う。
「柚春が……ちゃんと、女性として好きだから『今は』付き合えないんだ」
あの日、大人として教師として、そして何より年長の男性として、ウォルターは柚春に責任ある言葉を告げた。鉄の鎖のように硬い宣言だった。柚春の卒業、春の訪れとともに鎖が雪のように溶けるまであと一年と少々ある。柚春にとっては気が遠くなるほど長い時間だが、「過ぎ去ってみれば一瞬だったと思うはずだよ」と彼は言っている。
両想いとわかったいまでさえ、学校ではこそこそと隠れるように視線を交わしあうのがせいぜいなのだ。もし高校卒業の日が来ても、本当に彼と自分は恋人同士になれるのだろうか。信じてはいるけれど、柚春の不安もゼロではなかった。
だからよかったのかも。
ワットが言ったように、本当に付き合っていたとしたら、堂々とできないことにもっと不安を感じてたかもしれないから。
けれどウォルターの声は明るく、柚春の心にさしたを薄墨のような影をたちまち消し去ってくれた。
「待った？」
「ううん、全然っ」
ふたりのデートにおいてこのやりとりも定番化しつつあったが、それでも毎回、言葉をかわすたび柚春は震えるような喜びを感じている。
柚春を震わせたものが、もうひとつあった。
僕の瞳色のピアス。
ワット、今日も付けてくれてる。
それも――。
ウォルターの耳にはピアスがある。飾り石は柚春の瞳の色、暗い場所では深縹（こきはなだ）に、明るい場所では青藍に近い藍色だった。彼のハーフバースデー、十一月三日に柚春が贈ったものだった。
彼がピアスをしているのは左耳だ。右耳は空いていた。
男性の場合、これが『好きな異性がいます』の徴（しるし）になる。
シナリオ
シナリオデータ
シナリオスケジュール
- シナリオガイド公開日
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- 2023年11月12日
- 参加申し込みの期限
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- 2023年11月19日 11時00分
- アクション投稿の期限
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- 2023年11月19日 11時00分
