あなたがここにいてほしい｜リアクション

あなたがここにいてほしい

　シーサイドアウトレットは冬のバーゲン開催中だ。
　女子ふたりで思いつくまま気の向くまま、真白と紅美はブランドショップをめぐり歩いた。
　同時に試着して「せーの」で見せあい褒めあったり、おそろいのサングラスをかけてみたり、靴に帽子に小物、あさるみたいに物色して歩くだけで本当に楽しい。屋台のポップコーンを買って食べ歩き、バーガーショップで休憩する。そのあいだはずっと、とりとめのないおしゃべり。この楽しさは女の子同士ならではと真白は思う。
　そろそろ日が陰ってきた。最上階から降りるエレベーターに乗ったら他の客はおらずふたりきり、透明ガラス越しの夕日を見つめつつ真白は言った。
「ごめんねー、あっちこっち連れ回しちゃって」
「いいって、あたしも楽しいから」
　もし質問するなら、このタイミングしかないだろう。真白は決心した。
「……訊いていい？」
「なに突然？　ちょっとびっくりしてるんですけど」
「いや驚かせるつもりはなくてさー」
　笑いにごまかしつつも、真面目な口調で真白はたずねた。
「最近どう？」
「どう、って？」
「意識飛んでる間に何か書いてたとか、そういうのあったりしない？」
「あ、その話」
「そう、その話」
　DUALと呼ばれる紅美の第二人格が目覚めていないか、真白は気にしていたのである。
「いまんとこ、オッケ。夜中出歩いたりとかはしてない。わりとちゃんと夜は寝れてる。で、書き置き？」
「書き置きっていうか、もう一人の紅ちゃんからのメッセージっていうか」
「ないみたいよ。あたしが気づく範囲では」
　どうやらしばらく紅美のなかの『紅子』（陣の命名）は眠っているらしい。油断はできないが、しばらくは静観でいいだろうか。
「そういう真白こそどうなんよ？」
　ガラス窓に手をついて紅美は言った。
「私？　私について何か知りたいの？」
「うん。知りたいことあるよ」
　まさかと真白は思った。
　まさか、『好きな人っている？』とか言わないよね。
　それはちょっと、困るかな。いまはまだ――。
「真白は受験直前だよね。仕上がりは？」
「あーなんだ、そのこと」
「何を訊かれると思ったんよ？」
　はははと笑ってごまかして真白は言った。
「私の方はもうすぐ受験本番だから、今日は最後の追い込み前の一服って感じ。まぁ、順調だね」
　またもVサインを出す真白だ。
「去年末の模試の結果も悪くなかったし、このままなら変なやらかしをしない限りは受かりそうって感じだね。勉強以外のところだと風邪ひいたりしないように健康に気をつかってる感じよ」
「ナイスじゃん。四月からは真白、マタ大生だね」
「そのつもりだよー」
「でも四月になるころにはもう、千絵、いないんだよね」
「うん……そうだね」
　千絵に何か、餞別の品でも用意するべきだろうか。
　それとも送別会でも企画するか。
　いずれにせよ、別れの日は近づいている。