あなたがここにいてほしい｜リアクション

あなたがここにいてほしい

「紅ちゃん、あけおめー」
　真白はVサインして芋煮紅美を迎えた。
　シーサイドタウン駅前の広場。大きく目立つリボン飾り付きのマフラーを首に巻いた真白である。

「あ、どーも。あけおめ」
　紅美はそこまで振り切れた状態ではないようで、片方の手のひらを見せるにとどまった。
　糖分。私のスイートネス。それは紅ちゃんなんだよねぇ。
　甘いクッキーもゼリービーンズも、どろどろに濃いココアだって、紅ちゃんの甘さにはおよばない。甘いだけじゃなくて刺激的、守ってあげたくなる弱さもあれば、とことんリスペクトしたい強さもある。毒舌なのに寂しがり屋で、追えば逃げるのに逃げたら追ってくる。キュートでクールで面白い。それが紅ちゃん、私の活力源だよう。
　ひゃっほうと声を上げ真白は紅美の腕にとりつく。ついでに髪の匂いも嗅いでしまう。ジャスミン系、ホワイトフローラルな香だ。なお今日の紅美はいわく2Pカラー、つまりブルーのスカジャンを着ていた。
「こうして直接会うのは久しぶり？　いや、久しぶりってほどでもないかな？　まぁ年明けてからはお初ーってことであけおめだよー」
　久々に紅成分を吸収できたおかげか、真白は普段以上に元気で多動だ。雪が降ってきて庭駆け回る犬を思わせる動きである。
　対する紅美はといえばこたつ猫のよう、真白の半分以下のもっさりした動きで首をかしげた。

「まー元気っちゃー元気かな。そういう真白はどうなんよ？」
「私？　私は体調だけは万全！　でも心はあんまり元気じゃない！」
「それよくねーんじゃねーの？」紅美は真白の顔色をうかがいつつ慎重に言葉を選んでいる様子だ。「だって受験だろ、もうすぐ」
「だよー」
「なら帰って休んだほうが……」
　ノンノン！　と真白は声を立てて首をシェイクした。
「勉強疲れたー、ってへばってるのがいまの私。寝たり休んだりするより紅ちゃんとおしゃべりしたい！　いっしょに楽しいことしたい！　それで心を回復させたい！　だから今日は少なくとも夜までは精神力回復につとめるんだー」
「ようは気分転換ってことな？　ならつきあうよ」
「やったあ紅ちゃんさすが話がわかるぅ」
「んなものわかりのいいほうじゃないよ、あたし。真白の役に立てて、自分だって楽しいんならそれが一番って思ってるだけだし」
「いいんだよそれでー」
　じゃあさあ、と真白は提案した。
「『クラン＝G』、行こっか？」
「え、『クラン＝G』か……」
「私たちの秘密基地！　トレカしたい。トレードしたい。新作フィギュアも冷やかしたい。あとラノベの新刊立ち読みしたりしたい！」
「したいことだらけだな」
「そう、あの店には死体（したい）がいっぱい！　ってこう言うとゾンビの館みたいだなぁ」
　会心のコメントかと真白は思ったが、紅美にはややウケだったようだ。あー、としばらくこめかみをかいたりしてから紅美は言った。
「今日はやめとかん？」
「えーどして？」
「いや、あたし昨日も行ったし。今年の初売り日な。なんか昨日はメチャ混みでさぁ」
「だったら今日は多少沈静化してるんじゃない？」
　暇なときは連日店に行ったりする紅美なのだ。それで『昨日も行ったし』というのはらしくない。
　もしかして、と真白は人差し指を立てる。
「千絵ちゃんとケンカしたとか」
「してねーし！　昨日もめっちゃ話したし！　ごめん『めっちゃ』は嘘、千絵かなり忙しそうだったから」
「じゃあ今日話そうよ」
「うんまあ……そうだね」
　どうにも歯切れが悪い。
　紅ちゃんは嘘つくの下手だから、千絵ちゃんとのケンカって線はないと思う。
　だったら何かな――。
　やっぱ、七枷君と何かあった、のかな。
　でも彼も受験生だし、そうそうバイトは入れてないと思う。思いたい。でもほかに理由なんてなさそうだし。
　千絵ちゃんを七枷君がふった、そのことと関係……してるんだろうかなー、やっぱり。
　まあ無理は言わないでおこう。紅美ちゃんのこと困らせたくないし。
　なので真白は、「ならシーサイドアウトレットでも見にいこー！」に目的を変更したのだった。