あなたがここにいてほしい｜リアクション

あなたがここにいてほしい

　そのままふたりは、『夜の見回り』名目でシーサイドタウンの店舗をめぐった。
「そうそう、さっきあの店で先生似の猫のぬいぐるみを見つけたんですよ。見てみませんか」
　智瑜はファンシーショップに義弘をひっぱりこみ、棚にならんでいるぬいぐるみを見せる。
「ね？　かわいいですよね？」
　黒猫のぬいぐるみだ。目は半月形で鋭く、口もへの字に曲がっている。
「そう……か？」
　義弘はうなった。
「先生とそっくりです」
　義弘は認めるのに抵抗があるようだが、たしかにぬいぐるみの眼光の鋭さは彼と似ている。
「私はいつも、こんな表情をしているのだろうか」
　手に取りつくづくと義弘はぬいぐるみと顔をつきあわせた。まるで生き写しのリックとはちがい、こちらの黒猫はもっとカリカチュアした様相だが、それでも義弘の特長だけピックアップしたものに見えた。
「このぬいぐるみ、湯たんぽになってて一緒に寝たらあったかだそうです。先生だと思って抱きしめて寝ますね」
　智瑜は義弘の手からぬいぐるみを取り上げレジにもっていこうとしたのだが、
「待て」
　彼は智瑜からぬいぐるみを取り戻したのである。
「義弘先生、私が抱きしめるというのが気に入らないのですか……？」
「いいや」義弘は目元を緩めた。「私から宮祀、もとい智瑜にプレゼントさせてもらおう。リック・ヤン氏の誤解をといてくれて助かった」
「元はと言えば私が招いた誤解ですのに？」
「いいんだ。それに」いくらか逡巡した様子だったが、義弘は観念したように言ったのである。「喉元過ぎれば熱さを忘れるという話かもしれないが、今日の騒動は楽しかった。おかげでヤン氏とも知り合えたしな」
　でも、とぬいぐるみを抱えて義弘はつけ加えることを忘れなかった。
「だからといって、この黒猫が私に似ていると認めたわけではないぞ」
　怪我の功名、誤解からはじまった騒動が、めぐりめぐってよい方向に作用した。
　智瑜は感無量だ。
　しかも、デートの時間はまだたっぷりとあるではないか。義弘の手を引かんばかりにして言う。
「あっちにもかわいい服があったんです。先生、見回りしましょう！」
「わかった。わかったからそう急がすな。私は若くない」
「なに言ってるんですかまだ若さのまっさかりでしょう？　あ、でも若気の至りで別の人のおっぱい見てたら拗ねますからね。ちゃんと気付きますよ」
「み、見るわけないだろうっ！」
　たちまち紅潮する義弘を、やっぱり可愛いと智瑜は思うのである。