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- 学年：職業
- 00月00日生 00歳
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Thank You for Loving Me
高校は冬休み。
実家から出て初の年末年始だが、月原 想花は帰省しなかった。
帰ったところで弟と比べられ、みじめな思いをするだけだ。弟が獲得した賞状だの金のメダルだの、華々しいガラクタの大波に想花はのまれ窒息してしまうことだろう。両親の態度も露骨だ。弟のそれより明らかに小さく切り分けられたケーキ、できの悪いものだけ選んだ乗せられたおせちの皿、そうしたミニマルな虐待を加えられることがありありと予期できた。
それって、業火のうえの鉄板に乗りに帰るようなものだよね。
馬鹿馬鹿しい。自分はマゾヒストじゃない。
両親はそれでいいと思っているのか、理由を聞くはおろか、帰らないと書いた想花のメールに返事もしなかった。
閑散とするかと思いきや、猫鳴館の住民にはいろいろ事情があるらしく『居残り組』は案外いるようだった。その数も夏休み時期より多いくらいかもしれない。平常時のような混雑具合はないものの、玄関や廊下で少なくない生徒とすれちがった。食堂も普通にやっている。休業は年末年始の数日だけとのことだ。
といっても授業はないわけだ。居残り組の一人として想花には大きな時間的余裕がうまれた。
なので想花は活動している。何をしてるかと言えばやはりバイトだ。夏休みと同様である。短期ないし日雇いが中心だ。高校生なので時給も日給もたいしたことはないが、それでもまとまればそこそこの額になる。
聖夜にはクルーズ船の給仕のバイトをした。デートだパーティだと浮かれる人々を横目に働いたものだ。けれどもつらいとは思わなかった。むしろ楽しかったくらいだ。華やかな場所にいるというのは、たとえ当事者でなかったとしてもいいものだ。寮の隣人や、友人の紗櫻都（しゃるろっと）と一緒だったおかげもある。来年も想花はきっと、このバイトに応募するだろう。
そして今日も想花はアルバイト先へと向かっている。
いい天気だがじつに冷える。冷凍庫に入れておいたグラス、頬にふれる風はあの冷たさだ。ダウンジャケットの両ポケットに手を入れて前のめり気味に歩いた。
やっぱ毛量が減ったせいもあるのかな、寒いのは。
早足なのは寒いからだろうか。それとも（ひそかに）楽しみにしているからだろうか。
バイトというのはヘアモデル、川上紗櫻都のお店、正しくはその母親が経営している美容室に飾る写真を撮るのだ。
先日、想花は紗櫻都にいざなわれて彼女の母クレマンティーヌの調髪をうけた。おまかせと想花が告げて身をゆだね、うつらうつらしているあいだにクレマンティーヌは大いに腕をふるった。切ってととのえるといったレベルではなかった。革命と呼びたいほど大胆なイメージチェンジをほどこされたのだ。ベリーショートで思いっきりすっきりした結果、想花はさなぎが脱皮したような大変身を遂げた。さなぎから蝶へ。アンニュイな美女へと変身したのだった。
まるでモデルみたいと紗櫻都はうっとりして言ったが、その言葉は数日せぬうちに実現した。
カットモデルをつとめてほしい、とクレマンティーヌが電話をかけてきたのだ。アルバイト代は出すから、とも。
もちろん想花は二の足を踏んだ。しかし紗櫻都と一緒になって説得されてはどうしようもない。店の一角に即席したスタジオスペースにて、想花は約半日フォトグラファーの指示にしたがったのだった。
「無料でカットまでしてもらったのにそんな」
撮影終了後バイト代として渡された封筒に想花は驚き、うながされ中身を見てさらに仰天した。
ちょっと予想を超える金額――！
ひたすらに遠慮したが、本職のモデルに頼んだらこんなものじゃすまないからと説き伏せられて、いいのかなぁと思いつつもおしいただいた。
驚愕はバイト代にとどまらなかった。
完成した写真、これこそが最大の衝撃であった。もはや困惑のレベルである。
これがぼくなの？ と思わずドッキリを疑ったほどだ。ほとんど別人、どこかで他人のものとすりかわったのではないかというくらい美しい。いつものＴシャツとジーンズという野暮ったいスタイルだったのに、むしろそれがストリート系のクールさを際立たせている。
なお撮影者はフリーカメラマンの片庭（かたば）という女性で、普段はグラビアアイドルの撮影をしているプロだという。クレマンティーヌの昔からの知り合いで、寝子島に別件で来たついでに格安で引き受けてくれたらしい。
「お店のポスターになるだけでなく、店のサイトにも掲載します」
笑顔でクレマンティーヌは言ったのである。
ああ、もうこうなったらどうにでもなれ。
想花は苦笑いしたものだ。開き直るしかなかろう。
さて今日はといえば、追加の撮影があるという。星ヶ丘駅でねこでんを降り、ゆるやかな坂道をのぼって美容室の戸を押す。
店は定休日だがそれは織り込みずみだ。休業中にぱぱっと撮影を終える予定だったから。『Closed』のノッカーにかまわず入った。
「こんにちは」
返事がない。
ちょっと早く着きすぎたかな。
時計を見ると約束の時間より三十分も早い。
やっぱりぼく、緊張してるのかな。
我が身に問う。
片庭さんもまだ来てないみたいだし。
それでも返事がないのは変だ。
「あのう」
声をかけつつ奥へ進んだ。
実家から出て初の年末年始だが、月原 想花は帰省しなかった。
帰ったところで弟と比べられ、みじめな思いをするだけだ。弟が獲得した賞状だの金のメダルだの、華々しいガラクタの大波に想花はのまれ窒息してしまうことだろう。両親の態度も露骨だ。弟のそれより明らかに小さく切り分けられたケーキ、できの悪いものだけ選んだ乗せられたおせちの皿、そうしたミニマルな虐待を加えられることがありありと予期できた。
それって、業火のうえの鉄板に乗りに帰るようなものだよね。
馬鹿馬鹿しい。自分はマゾヒストじゃない。
両親はそれでいいと思っているのか、理由を聞くはおろか、帰らないと書いた想花のメールに返事もしなかった。
閑散とするかと思いきや、猫鳴館の住民にはいろいろ事情があるらしく『居残り組』は案外いるようだった。その数も夏休み時期より多いくらいかもしれない。平常時のような混雑具合はないものの、玄関や廊下で少なくない生徒とすれちがった。食堂も普通にやっている。休業は年末年始の数日だけとのことだ。
といっても授業はないわけだ。居残り組の一人として想花には大きな時間的余裕がうまれた。
なので想花は活動している。何をしてるかと言えばやはりバイトだ。夏休みと同様である。短期ないし日雇いが中心だ。高校生なので時給も日給もたいしたことはないが、それでもまとまればそこそこの額になる。
聖夜にはクルーズ船の給仕のバイトをした。デートだパーティだと浮かれる人々を横目に働いたものだ。けれどもつらいとは思わなかった。むしろ楽しかったくらいだ。華やかな場所にいるというのは、たとえ当事者でなかったとしてもいいものだ。寮の隣人や、友人の紗櫻都（しゃるろっと）と一緒だったおかげもある。来年も想花はきっと、このバイトに応募するだろう。
そして今日も想花はアルバイト先へと向かっている。
いい天気だがじつに冷える。冷凍庫に入れておいたグラス、頬にふれる風はあの冷たさだ。ダウンジャケットの両ポケットに手を入れて前のめり気味に歩いた。
やっぱ毛量が減ったせいもあるのかな、寒いのは。
早足なのは寒いからだろうか。それとも（ひそかに）楽しみにしているからだろうか。
バイトというのはヘアモデル、川上紗櫻都のお店、正しくはその母親が経営している美容室に飾る写真を撮るのだ。
先日、想花は紗櫻都にいざなわれて彼女の母クレマンティーヌの調髪をうけた。おまかせと想花が告げて身をゆだね、うつらうつらしているあいだにクレマンティーヌは大いに腕をふるった。切ってととのえるといったレベルではなかった。革命と呼びたいほど大胆なイメージチェンジをほどこされたのだ。ベリーショートで思いっきりすっきりした結果、想花はさなぎが脱皮したような大変身を遂げた。さなぎから蝶へ。アンニュイな美女へと変身したのだった。
まるでモデルみたいと紗櫻都はうっとりして言ったが、その言葉は数日せぬうちに実現した。
カットモデルをつとめてほしい、とクレマンティーヌが電話をかけてきたのだ。アルバイト代は出すから、とも。
もちろん想花は二の足を踏んだ。しかし紗櫻都と一緒になって説得されてはどうしようもない。店の一角に即席したスタジオスペースにて、想花は約半日フォトグラファーの指示にしたがったのだった。
「無料でカットまでしてもらったのにそんな」
撮影終了後バイト代として渡された封筒に想花は驚き、うながされ中身を見てさらに仰天した。
ちょっと予想を超える金額――！
ひたすらに遠慮したが、本職のモデルに頼んだらこんなものじゃすまないからと説き伏せられて、いいのかなぁと思いつつもおしいただいた。
驚愕はバイト代にとどまらなかった。
完成した写真、これこそが最大の衝撃であった。もはや困惑のレベルである。
これがぼくなの？ と思わずドッキリを疑ったほどだ。ほとんど別人、どこかで他人のものとすりかわったのではないかというくらい美しい。いつものＴシャツとジーンズという野暮ったいスタイルだったのに、むしろそれがストリート系のクールさを際立たせている。
なお撮影者はフリーカメラマンの片庭（かたば）という女性で、普段はグラビアアイドルの撮影をしているプロだという。クレマンティーヌの昔からの知り合いで、寝子島に別件で来たついでに格安で引き受けてくれたらしい。
「お店のポスターになるだけでなく、店のサイトにも掲載します」
笑顔でクレマンティーヌは言ったのである。
ああ、もうこうなったらどうにでもなれ。
想花は苦笑いしたものだ。開き直るしかなかろう。
さて今日はといえば、追加の撮影があるという。星ヶ丘駅でねこでんを降り、ゆるやかな坂道をのぼって美容室の戸を押す。
店は定休日だがそれは織り込みずみだ。休業中にぱぱっと撮影を終える予定だったから。『Closed』のノッカーにかまわず入った。
「こんにちは」
返事がない。
ちょっと早く着きすぎたかな。
時計を見ると約束の時間より三十分も早い。
やっぱりぼく、緊張してるのかな。
我が身に問う。
片庭さんもまだ来てないみたいだし。
それでも返事がないのは変だ。
「あのう」
声をかけつつ奥へ進んだ。
シナリオ
シナリオデータ
シナリオスケジュール
- シナリオガイド公開日
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- 2023年09月13日
- 参加申し込みの期限
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- 2023年09月20日 11時00分
- アクション投稿の期限
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- 2023年09月20日 11時00分
