エレベーターが開くと、「あっ」「おっ」と同時に声が上がった。あわせて『青(あお)』としゃれたわけではないのだが、ふたりとも偶然ながら青いものを身につけていた。
青いニットは
鷹取 洋二、黒のテーラードジャケットとの対比が鮮やかだ。フレッシュだがセミフォーマル味のある、ちょっと小粋な『よそゆき』感。
青いチェスターコートは
相原 まゆだ。寒々しい青ではなく、カリブの海のようなライトブルー。ベージュのニット、白いパンツもあいまって、ビジネスウーマンのお出かけコーデといったところだった。
「相原先生、お久しぶりです」
お辞儀する彼にまゆは手を振った。
「そんなかしこまらないでいいよー。高校時分みたく『まゆ先生』でオーケーオーケー」
「ではまゆ先生、今日はお買い物ですか?」
ふたりが乗り合わせたのはショッピングモールのエレベーターなのだった。
「まーねー。ていうか時間つぶし? みたいな」とまゆは告げて問い返す。
「洋二君は一時帰国中?」
「いえ、僕は国内在住ですよ。ていうかマタ大(木天蓼大学)なんで寝子島住みです」
「あれ? そうだったっけ? フランス留学では……?」
「あの話は辞退させてもらいました。ひらたくいうと『や~めた』です」
「もったいなーい」
「全然。いまのほうが百倍いいですよ」
「ふーん」
エレベーターの現在点表示が『5』から『4』へゆっくりとうつろう。ここで一時的に会話が途切れたが、すぐに洋二が口を開いた。
「ところで先生、時間つぶしとおっしゃいましたが」
「言ったっけ?」
「ええ。ということはどなたかと待ち合わせでしょうか」
「そそそんなことないよっ!」
「正直すぎますよ先生」ニヤリとする洋二なのだった。「ずばり、
おデートですね?」
「ノーコメント!」
白状しているに等しい声と表情のまゆである。
「そういう洋二君こそ何さ、そのキメっぷり、デートでしょう!」
「そそそんなことないですよっ!」
まさか問い返されるとは思ってもみなかったのか、洋二は面白いくらい動揺した。
それはそうとして相手は、誰?
洋二は思う。
冴木 竜司くんだったりするのかなぁ、まさかのまさかではあるけど……いや、そんなミラクルこそ素敵じゃないか。
まゆは思う。
洋二君って高校のころ浮いた噂ひとつもなかったけどなぁ。うん、でも、もしかしたら??
いずれにせよ幸多かれと、洋二もまゆも内心互いにエールを送るのである。
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昨日、九鬼姫(
八幡 かなえ)は九夜山をさまよっているところを発見され、無事病院に保護された。なぜ意識が戻ったのかはわからない。以後断続的に昏睡と意識回復を繰り返したものの、一時的なものだったのかその後まもなく長い昏睡に入った。
「病院って嫌い。煙草吸えないから」
病室の前の椅子、深く腰掛けたまま
まみ子(
姫木 じゅん)はつぶやいた。
紗央莉(
三木 桜咲香)は応じない。また九鬼姫が病室を抜け出さないよう、そして、認めたくはないが万が一のときに備え、クラブ『プロムナード』のメンバーは交代でかなえの病室の前に陣取ることにしたのだった。とくにローテーションや順番を決めたわけでもなかったせいで、まみ子と沙央莉の両者を知る者にとっては、意外すぎるほど意外なこの組み合わせが早々に実現していた。
しばらくの沈黙を経たのち、まみ子がぽつりと言った。
「……九鬼には最後に、会いたい人がいたんじゃない?」
誰に? と紗央里は質問しなかった。黙って席を立った。
「院内は携帯電話も禁止だから」
言い捨てて廊下を歩み去って行く。
――あたしら仲悪かったのにね。
紗央里の背を見送りながらまみ子は思う。
それが以心伝心だなんて。
「世も末だわ」と独り言してまみ子は額に手を当てた。
煙草を吸いに行きたかった。ただこの場所を離れるためだけであっても。
紗央里は中庭に降り立つと、スマホの電話帳から『
木野 星太郎』の名前をタッチした。
冴木 竜司さん、木野 星太郎さん、ガイドに登場いただきありがとうございます!
ご参加いただける際は、ガイドの内容にかかわらず、自由にアクションをおかけください。
概要
拙作『君が教えてくれるすべてのこと』の直後となるシナリオです。まだ大晦日にはかかりません。
タイトルを直訳すれば『愛してくれてありがとう』、愛と感謝がテーマです。タイトルから想起できる内容(こじつけも歓迎!)で自由にアクションをお寄せください。
もちろん、シナリオガイドのストーリーにはまったく絡む必要はありません。
NPCについて
申し訳ありませんが、今回も登場可能NPCに限りがあります。
以下のNPCのみ登場可能です。
・本作のシナリオガイド(サンプルアクションを含む)に登場しているNPC。
・『クラン=G』、『プロムナード』(『ザ・グレート・タージ・マハル』含む)、『ねこのしま』の関係者。(いずれも店名です。知らない方は特に気にしないでください。すべて未登録NPCを含みます。)
・リチャード(リック)・ヤンと桐島 義弘も引き続き登場可能です。ヤンについては『君が~』のガイドを参照ください。
・Xキャラについては参加制限はありません。全員登場可能です。
以下のNPCには明確な行動指針があります。
・九鬼姫こと八幡 かなえ:九夜山をさまよっているところを発見され病院に収容されました。ふたたび意識不明ですが関わったPCさんのアクション次第で目を覚まします。
・三佐倉 千絵:まだ気持ちにゆらぎはありますが、ホビーショップ『クラン=G』にて回答をするつもりです。店を売るのか、売らないのか、それをリチャードに伝えることでしょう。
・リチャード(リック)・ヤン:米国のゲーム会社から送り込まれてきた交渉役です。多少資金を積んでも『クラン=G』を買う気で交渉しますが、どうしても無理ならせめて業務提携の約束くらいはなしとげたいと思っています。
参照シナリオについて
参照シナリオがある場合はタイトルとページ数もお願いします。申し訳ありませんが2シナリオ以内でお願いします。できれば自PCとどういう関係なのか(父よとか母よとか妹よとか等)も併記いただけると幸いです。
私は自分が書いたシナリオでもタイトルとページ数を指定いただけないと内容を思い出せないのでご注意ください(汗)。