怪人セブンの歌劇｜リアクション

怪人セブンの歌劇

【ダイ　ロクマク】

　一方、ちょっと時間が遡って東館。
　西館よりも早めに行動していたため、既に全員参加したあとだ。
　恵御納夏朝は東館エントランスの絵画ブースを調べていた。
（別人格が引き起こす事件……）
　ふと、彼女は悪寒に襲われる。
（心が震える程に、怖いよ……。僕も他人事じゃないかもしれないし……）
　恵御納は不思議な白猫との邂逅の際に出会った未来の自分の姿を思い出していた。
　手に握られた刃物から滴る赤い雫。
　赤黒く変色したスカートとシャツ。
　未来の恵御納の可能性の１つに、『冷徹な恵御納』の誕生が存在することに強いショックを受けていた彼女。
　自分の中に人を平気で害する自分がいる……。
　それ以来、自分の中のジブンを押さえ込もうと、尽きることのない不安感を隣り合わせの生活を彼女は密かに強いられてきたのだ。
（芽森先輩は……、僕の行き着く成れの果てなの？）
　自分も絶望の果てに、人を辞めて悪鬼へと変貌してしまうのだろうか。
　そう考えたら、彼女はいてもたってもいられなくなり、この事件に関わる決心をしたのだ。
「今は僕ができることを精一杯やらないと！」
　さしあたって、彼女は一通りの絵画をチェックする。
　全て模写だが、完成度がかなり高いことが伺える。
「全てに『７』ってサインされてる。つまり、セブン、いや菜々緒先輩が描いたんだ。やっぱり上手だね……」
　だが見蕩れている時間はない。
　恵御納は猫シールを体中に貼り付け、ろっこん『重く軽く』で自分の身体を軽くする。
　目論見は成功し、体が羽毛のように軽くなる彼女。
　これで素早く動けるようになった。
「僕たち以外の侵入した形跡はあるけど、だいぶ古かった……。あと明らかに怪しいのは、あれだね……」
　名画の模写が並ぶ中、１つだけ額縁だけの絵画が存在することに強い違和感を感じる彼女。
　題名を調べると『５人目と10人目と29人目は涙を零す』と書かれている。
「……絵も気になるけど、額縁が怪しすぎる」
　彼女はまず、額縁を丹念に触れて調べてみるが、何の変哲もない額縁であることが分かった。
「ひとまず、何かのヒントかも知れないから報告しよう」
　恵御納は神野に急いでこの絵画の件を報告した後、再び額縁を調査し始める。
「もしかして……」
　恵御納は気が付いた。
　額縁の中にあるのが絵画なら、丸見えの壁に何かあるのではないかと。
　彼女は注意深く壁をノックする。
　すると……？
「……やっぱり、ここだけ中が空洞だ」
　となると、やるべきことは１つだった。
　持参した麺棒に、小銭を詰め込んだ靴下の裾を結び付ける。
　これで簡易型のフレイルが完成だ。
　恵御納は限界まで振りかぶると、裂帛の気合とともに簡易フレイルで壁を殴り付けた！
「いやああぁぁぁぁぁ！」
　陥没する壁板！
　手応えを感じた彼女は無我夢中で何度もフレイルを振り下ろす。
　４回目の攻撃ではめ込まれていた板が木っ端微塵に砕け散った。
　その隠された奥にあったものは……。
「なに、これ？」
　目が点になる恵御納。
　そこには、無骨なデザインのレバーが存在していた。
　彼女は罠を恐れながらも、勇気を振り絞ってレバーを手前に倒した。

　恵御納夏朝：レバーＯＮ！