喫茶Rainyの危機～謎のスイーツ消失編～｜リアクション

喫茶Rainyの危機～謎のスイーツ消失編～

「どこから入ったんだ？　店先にはじーちゃん達が居ただろ」
　龍樹は当初からの疑問をぶつけてみた。
「主様が出る前に来たのです……バリーは“物音を立てずに”行動できます。表の鍵が開いていたので、こっそりエスコートしてくれました」
「だから、忍び足にも自信ありと……忍者みたいだな」
　種明かしされてみると、意外と簡単な話でラッセルは拍子抜け。
「プラム～、泣かないで～！」
　ジタジタ暴れるバリーだが、ラッセルは取り押さえたまま。プラムに経緯も訊ねた。
　
「『人間界に素敵な場所がある』とバリーに誘われて。入った瞬間、感動しました。なんて素敵な空間だろうって」
　そして、彼女は思った――こんな場所でくつろいでみたい、と。
　プラムは“任意の場所に小部屋を作る”ことができ、それが事件の引き金となった。
「似せた小部屋を作り、“お茶会をしよう”と提案したら、焼き菓子の匂いがしてきたんです。それでバリーが飛びだして……こんな騒ぎになるなんて」
「嫌な予想が当たったわ。彼が独断で持ち出した、と」
　紫はバリーに威圧を込めた視線を注ぐ。
「人間界では“売買”というルールがあるの。人の物を黙っていく行為は盗み。罰せられる行為よ」
　向けられた怒気と説明に、バリーも事の重大さに気付いたようだ。

「うぅ、プラムに喜んでほしかっただけなんだよ〜」
「その当人が喜んでないだろ……押し問答してた感じだし、お菓子は食ってないか？」
　バリーを解放し、ラッセルがテーブルを確かめる。
　プラムは受け取りを拒否し、バリーもプラムに贈りたかっただけ。
　持ち出した以外の被害は、お菓子を割ったり、形が崩れたくらいか。

「そうだ！　2人とも、気に入った菓子を1個選んで、感想を教えてくれよ」
　プラムとバリーは困惑した顔でラッセルを見つめ、頼子が割り込む。
「“美味しい”って言ってもらえたら、甘慈さんも喜びます！　1、2個くらいなら大目に見てくれやしょう」
　そしてバリーは割れたジンジャーブレッドを、プラムは木苺のマカロンを口に運ぶ。
「美味し～！　色んなスパイスが入ってて刺激的だけど、甘いのが苦手な人でも食べやすそ～」
「サクサク生地と甘酸っぱいクリーム、口の中で溶けていくような食感……こんなに美味しいお菓子があるなんて！」
　あやかし達は目を輝かせて味わった。
　それから、バリーが「ごめんなさい」と頭を下げ、お菓子は無事に回収された。