思い出と共に｜リアクション

思い出と共に

「お、チャリティか？　でも俺、子供にやれるものなんて……」
　チャリティの噂を聞いた吉祥寺黒子は、早速子供達にあげるものがないか、身辺を漁り始めたが、あまりめぼしいものを見つける事が出来なかった。
　というのも、彼女は旧市街から星ヶ丘に越してきて、まだ日が浅い。
　彫刻刀や、使わなくなった古いギターはあるのだが。
「子供向けじゃあねぇよな……まぁ、一応持ってくけど」
　使い方を教えてやれば、何かに没頭する事で辛さを忘れてくれる子もいるだろう。
　運よく才能を開花させれば、アーティストとしてやっていけるかもしれない。

　そこで黒子は、はたと考え手を打った。
「……そうだ。俺は芸術家なんだから、物作ればいいじゃん！」
　子供達が一緒に遊べるような……例えば輪投げとか、組み立て式の滑り台や、ジャングルジムを作ればいい。
　しっかりした物を作れば、長く愛用して貰えるだろう。

　本当は施設に子供が居なければならなくなる様な、悲しい事が無くなれば良いのだが。
　現状、受け皿は必要なのだ。

　思い立ったら、即実行。
　黒子はホームセンターへ行くと、木材やジョイント、ペンキなど必要な材料を買い込んだ。

　子供達の手が触れる部分には、丁寧にやすりをかけ。
　見た目にも楽しい形や、丸い角にこだわって。刺激の少ないペンキで、カラフルに彩色する。

　全て出来上がる頃には、黒子の部屋も頬も木屑だらけになっていた。
　しかし彼女の唇は、造った物の出来の良さに、子供達の笑顔を思い浮かべて、ほころんだ。

●

「慈善活動かあ。うーん、 “僕が僕であるなら、きちんと参加しないといけない行事” だねえ」
　黒子と同じように、ホームセンターに足を運んだのは、刻人・F・ミセリア。
　米国より留学生として日本にやって来たという刻人は、木天蓼大学に通っている。
　そして寝子島の郷土史を勉強するためという名目で、フィールドワークにいそしんでいるのだが。

「えーと、日本の子供が好きな花は、ひまわりや朝顔かな？」
　どちらも教育の現場でも用いられる、成長が分かりやすく育てやすい花だ。
　観察をすれば、きっと子供達の情操教育の一環になり、いかにも慈善活動という感じがする。
　早速、プランターや土など、植物を育てるのに必要なものをカートに乗せて。
「んー、たくさん買っちゃいましたが、宅配サービスやってますよね？　おや……？」
　歩く刻人は、ふと園芸コーナーにおいてあった、百日紅の鉢植えに目を留めた。

「……木も、大丈夫かな？」
　自信はないけれど。
　刻人は百日紅に、そっと手を伸ばした。

●

「チャリティかあ、なんかお嬢様らしい行動だよね」
　陸上部員の青物といきは、年頃の女の子らしく、自らのお洒落に余念がない。
「成金上がりで、星ヶ丘住まいの私にとっては、いいチャンスかにゃー？」
　といきはそう言うが、実際は彼女の実家は某有名温泉地で宿泊施設を手広く経営しているため、それなりに裕福な家のお嬢様なのであるが。

　いさんで、あまり履いていない靴を並べてみたといきは、頭を抱えてしまった。
「お古の靴は、数に限りがあるにゃ。
　それに本当は新品を一から履いた方が、その人の足に合っていいし。
　いきなり綺麗なもの持ち込んでも、空気読めてない感じだにゃ……」

　けれども、チャリティがあると知ってしまったからには、是非とも力になりたいといきである。

「よし、ここは思い切ってボランティア。体一つで、子供達と遊べないか交渉にゃ！」

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