思い出と共に｜リアクション

思い出と共に

　楽しい時間は過ぎて。
　犬神花梨や李小麗に指揮されて、子供達からお礼の歌が送られた。
　決して上手ではないが、伸び伸びと声は響く。
　そうして、隙を見てこっそりと子供達の手で作られた折り紙の首飾りが、今日来てくれたそれぞれの首に掛けられる。

「今日は来てくれて、本当にありがとうな！　良かったら、また餓鬼共の遊び相手になってやってくれよ」
「皆、待ってるのだ！」

「「「皆さん、ありがとうございました！！」」」

　のどかな様子を直立不動のまま見守り、鉄衛守は施設をそっと立ち去った。

　ここの子供達は、表情が明るく溌剌としている。
　美術展の作品にも、それが現れていた。
　きっと養護施設の環境が良いのだろう。

　黒い手袋を嵌めなおした指で、首飾りを弄び……衛守は僅かな笑みを落とす。

（彼らが、まともな大人に育ってくれることを願おう）

　もうすっかり日が落ちている。
　子供達に振り回される一日を思い返しながら、高城律は痛む腰をさすった。
　結局、持ったまま渡せなかった画材の重さに、自分が惨めになった。

　――結局、俺は弱いから捨てられないんだ。拠り所を。絵を描くことを。

　いつまでも過去を振り切れず、前に進めない自分が情けない。

　けれど。
　律が不要と無意識に否定するそれは、彼の未来を彩るのに、まだ必要なもの。
　例えこのまま、画家としての道が、色の無い世界に閉ざされても。
　大事な物は、無理に手放さなくてもいい。

　人は誰もが、たくさんの思い出と共に、希望の光を抱えて生きている。

　　　終

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