【クリスマス☆green】クリスマスキャロルを聴きながら｜リアクション

【クリスマス☆green】クリスマスキャロルを聴きながら

クリスマス商戦、奮闘中

　クリスマスといえば休暇、という人も多いだろうが、クリスマスと言えば仕事、しかも年に一番の繁忙期という人も少なからずいるだろう。梓智依子もそういった忙しい一人だ。
　智依子のバイト先は「おもちゃのハローニャック」。
　クリスマスと言えばブラックフライデー以上に大賑わいである。
　智依子は寝子高の１年生だが、娘・楓の出産育児を挟んでの入学となったので、年齢はみんなより上だ。４歳になって可愛いさかりの娘のためにも、自分を受け入れ娘の子育てまでサポートしてくれている祖父母のためにも、すこしでもバイトをして生活費を稼ぎたい。

「ふーっ、人気のゲーム機はとっくに売り切れ。今期の特撮ものの変身ベルトも残りわずかね」

　バックヤードで在庫をチェックしていると、バイトチーフから声がかかった。
「智依子さん、休憩入ってください、って店長が」
「えっ。もうそんな時間？」
　時計を確認する。
　９時に出勤したから……昼休みを挟んでいるものの、けっこうな時間働いた計算になるではないか。
　ふーっ、とため息も出たりするはずだ。
「そうするわ」
　よっこらしょと立ち上がり（まだ若いのに）、肩をぽんぽんと叩きたくなる。
　クリスマス商戦は忙しくて、その分自分としても稼ぎ時であるので、とにかくよく働いた。
　こんなときは娘の動画で癒されよう。
　そう思って、控室でスマホで撮った娘の姿を眺めていると、いっしょにバイトしている年下の同級生たちが戻って来た。
「あっ、楓ちゃん！　私たちにも見せて！」
「きゃあ～～かわいい！　いつもながら癒されるぅ」
　バイトの休憩時間によく楓の写真や動画を見せていたので、娘はすっかり同級生のアイドル状態である。
　しばらくそうして黄色い声を上げていた彼女たちは、時計をみてハッとして言った。
「あっ、私たち、今日はこれであがりなんです」
「智依子さん、お先に！　お疲れ様でしたー！」
「お疲れさま」
　同級生たちを見送る。うきうきした顔をしていたから、これからデートだろうか。それとも友達や家族とパーティ？　なんにしろ善きことだ。
　一方の智依子は、もうひと仕事。
　持ち場である女児向け玩具売り場へ入ると、客の案内、商品説明、整理、入庫、レジ打ちの応援、更に迷子になってギャン泣きする子供をなだめすかしたり。かと思えば、降ってわいたようなクレームをどうにか処理したりと、ほとんど休む間もなかった。

「ふうっ、駆け込みでプレゼントを買う客があんなにいるなんて……流石に疲れたわ」
　家に帰りついて、くたくたな体を引きずるようにして玄関のドアを開ける。
　すると玄関で待ち構えていた娘の楓が、
「ママー！」
　とダイブで飛びついてきた。
「わっ、楓！　ただいま」
　楓は頭に赤くて白いふさふさがついた、サンタの帽子をかぶっている。
「ママ、おそいっ！」
「遅くなってごめんなさい」
　智依子は楓に、それから楓の背後で出迎えてくれた祖父母に向かって謝る。
　楓はぽかぽかと可愛らしく智依子を叩いたが、祖父母は笑って許してくれた。
　楓を抱っこして、クリスマス料理が並ぶ食卓へ向かいながら、智依子は祖父母への感謝の念を強くした。
（おじいちゃんとおばあちゃんがいなかったら、きっと楓を失っていたわ……）
　こうして娘と過ごせるクリスマスが、自分だけでなく彼らの協力あってのものだと思うと、ちょっとくらいバイトが忙しくても、学業との両立が大変でも、頑張っていける。そう思える。

　祖父母（楓にとってはひいおじいちゃんとひいおばあちゃん）と、楓と、智依子。
　四人で一家団欒のクリスマスを過ごしたその夜。
　寝息をたてる楓の枕元に、智依子はそっとプレゼントを置いた。
　従業員割引で購入した「魔法少女ミスティックエール」のキラキラコスメセットである。
（いつまでサンタさん、信じていてくれるかな……）
　できるだけ長く、夢見ていてほしい。
　むにゃむにゃと口元を笑ませる娘の寝顔を眺めながら、智依子も自然と微笑んでいた。