【クリスマス☆green】クリスマスキャロルを聴きながら｜リアクション

【クリスマス☆green】クリスマスキャロルを聴きながら

星幽塔で温泉です！

　――さてここで、舞台を夜の女帝号から移そう。

　星幽塔、第二階層。
　水中に沈んだ遺跡の世界である。
　星幽塔には十二の階層があり、それぞれ十二星座に対応した『アステリズム』と呼ばれる守護者がいる。
　アヴィケンナ・マラータは、この第二階層の守護者、うお座のアステリズムを務める少年であった。
「『美』少年」
　――美少年である。
　今ツッコミを入れたのは、ロベルト・エメリヤノフ。
　自他ともに認める美少年ハンターだ。

「クリスマスだ！　大学の友人とワイワイ過ごすか……
美青年にろっこんを使ってムフフするのもいいけど……
なんか皆別件で忙しそうだし……寝子島に行ってみようかな。
なにより星幽塔には美少年、アヴィケンナくんが居るからね！」

　そんなわけで寝子島経由でやってきました、星幽塔。
　ロベルトは今、美少年アヴィケンナに冷え冷えとした目を向けられている。
「誰だっけ」
「えー、覚えててよ。ほら、最終決戦のとき、君の手と足となり、君を守ったでしょ！」
「……」
「それにほら、絶神との戦いのときもさ、いっしょに温泉に入ったじゃない！」
「……」
「もうこの際、初対面て体でもいいや！　クリスマスだから一緒に遊ばないかい？」
「……ぷっ」
「え、なに？　何か笑うところあった？」
「思い出したよ。前にあったときは二人いて美少年がどうこうってケンカしてたね。今日はひとりなんだ？」
「うんそう。だから君と遊びたくて」
「奇特な人だね。でもそうだな、このところ人に全然会ってなかったから、たまにはいいかな」
　第二階層は荒廃した水の世界で、第一階層のように人で賑わってはいない。さらにアヴィケンナの日常ときたら、水中に沈んだ遺跡から漂着する遺物（アーティファクト）をいじくって調査するというものだ。あまり人との接点はないのである。
「ところで『くりすます』って？」
　星幽塔第二階層には、クリスマスの風習はないようである。
「僕がいる、寝子島がある世界の風習なんだ。宗教行事っていうか」
「神に祈るの？　そういうのは興味ないけど」
「いやいや、真面目にやってる人もいるけど、大体の人は細かいこと気にしないで遊んでるよ」
「ふうん。で、君はボクと何をして遊びたいわけ？」
　それはねえ、とロベルトはにっこり微笑む。

「――温泉です！」
　ロベルトは湯気たつ温泉に肩まで浸かっていた。
　幸せすぎて、むふふと笑いがこみ上げてくる。
　水と廃墟の世界である第二階層の名物は、温泉なのだ。
　廃墟になった遺跡の白さと、とろみのあるお湯の白さ。
　そして何よりアヴィケンナ（１２歳）の、名匠の手による白磁器のように滑らかな肌の白さ。
「どれも素晴らしいね！！！」
　思わず拳を握らずにはいられない。
「鼻血、出てるけど？」
「うんっ。クリスマスに美少年と入浴すれば、そういうこともあるよね！」
「……」
　アヴィケンナが胡乱な目つきでこっちを見ているが、美少年の全裸の前にはどうでもいいことである。
（……そういえば）
　幸せの絶頂を感じた瞬間、ふいにロベルトの脳裏に過去のことが蘇って来た。
（だいぶ前……理想の美少年に僕は飽きっぽいから来年、自分の隣にいるのは違う人かもしれない……なんて言っちゃったこともあったね。結局本当にそうなっちゃったな）
　鼻まで湯につかってぶくぶくと泡を吐く。
（……ま、いいか！　彼も彼で素敵な人と幸せにやってるしね。今どうしてるんだろうね）