【クリスマス☆green】クリスマスキャロルを聴きながら｜リアクション

【クリスマス☆green】クリスマスキャロルを聴きながら

サンタさんとクリぼっちな生き霊たち・その３

　ヴァイオリンの弾き手は慶介であった。
　曲はクリスマスらしく、賛美歌としてもクリスマスソングとしても有名な「もろびとこぞりて」だ。英語の歌詞の始まりは「Joy To The World」。浮遊霊たちもネガティブな気持ちを少しでも忘れられないかと思っての選曲である。
　生き霊たちの動きが止まる。
　ふわりと暖かいものに包まれているかのような表情をして。
　今なら説得が通じそうだ。
　ヴィーゼは生き霊たちに優しく微笑む。
「うんうん、辛い事があったのね……でも、貴方たちがすべき事はここでサンタさんの邪魔をする事じゃない筈よ。それに……ぼっちぼっちって言ってるけど、ここにこんなに集まって協力し合ってるんだから、全然ぼっちじゃないと思うんだけど……？」
「俺もそう思ってました」
　慶介も生き霊たちと向き合う。
「生き霊になってる人たちで集まってクリスマスパーティーしたらいいんじゃないかな……？　恋人がいなかったり、上手くいってなかったりするかもしれないけど……皆で集まって悲しい気持ちを話し合ったら少しでも気分が晴れないかな……なんて……」
　もじもじと慶介は灰色の髪を指でいじる。
「俺は恋はよくわからないけど……そこから新しい恋に繋がることもあるってお母さんが言ってました」
「そうとも！」
　復活した信彦が生き霊たちに語りかける。
「要は『恋人が欲しい』というのが、キミ達の願いだろう？　なら、そう難しい話じゃない」
　信彦は生き霊ひとりひとりの顔を覗き込んで言った。
「キミ達の多くは彼氏彼女がいない状態で、そして恋人がほしいと思っている。ほらっ、求めるものが目の前にあるじゃないか」
　生き霊たちは互いに顔を見合わせる。
　――あれ？　けっこうカッコイイ？
　――あれ？　けっこう好みかも？
　彼らは『クリスマスは恋人同士で過ごすもの』という呪縛に囚われて生き霊になってしまったが、元はといえばどこにいる普通の人。けっして悪い人たちではないのだ。
　お、これはいけそうだ。そう感じた信彦は、パン、と両手を打ち合わせた。
「俺がキッカケを提供するよ。チャンスを掴めるかどうかはキミ達次第だけどね」
「つまり――『合こん』という若人たちの宴をひらくのだな？」
　道哉が合点したと拳を手のひらに打ち付ける。
「それはいい。生きてるだけで可能性はあるんだ。なんなら死んでもごーるいんする輩もいる」
「そうそう」ときなこが深く頷く。「６９９さいのわたしがいうんだからまちがいないよ」
「そうね。今日はクリスマスなんだから、生き霊とはいえここで出会えたことも一種の奇跡だと思うわよ」
　ヴィーゼも大賛成のようだ。

　そうと決まれば、その合コンをどこでやるかだ。
　ヴィーゼが「お店に来てくれたら皆でコーヒーでも飲みながら語り明かすのにだって付き合ってあげるわ！」と言ってくれたが、生き霊のままより生身に戻って集合した方がいいだろうということになり、集合場所は霊界のヴィーゼの店ではなく、シーサイドタウンの飲食店ということに落ち着いた。
　慶介はすぐにこの時間でも開いている店を探して予約してくれた。
　信彦は生き霊たちを連れて、すちゃっと敬礼する。
「乗りかかった船だからね。一次会は俺が仕切らせてもらうよ！」
　信彦のことだ、自己紹介から趣味を聞き出し話を膨らませ、お互いを親密にするのはお手のものだろう。
　それにリッチなブラックカードで奢ってくれるかもしれない。
「でも、高校生で朝帰りはマズいので、二次会は各々でヨロシク！　近くにカラオケとか、大人なＢＡＲもあったはずだからね」
　自分の生き霊によって心理ダメージを受けている莉鳥は、気遣い上手な信彦に誘われて引っ張られていった。
　あやかしのヴィーゼ姐さんも人間に化けて同行するという。心の傷を癒しきれない元生き霊さんの悩みを、ゆっくり優しく聴いてくれるに違いない。
「じゃあ、いったん体に戻ってシーサイドタウンに集合！」
　信彦、莉鳥、ヴィーゼと生き霊たちは、さっそく街へ繰りだして行った。

　一方、屋上に残ったラッセル、晴月、慶介、きなこ、道哉は――。