【終業式】課題をクリアして冬休みを死守せよ！｜リアクション

【終業式】課題をクリアして冬休みを死守せよ！

　一年一組の黒板に生徒達が殺到する。他の教室と同様に能力向上テストの内容を書いた紙が貼り出された。
　仙藤蒼は自分の席にいた。スマートフォンを使って新作のオンラインゲームの情報収集に余念がない。
　――理事長の冬休み廃止案はムカついたけど、こっちの方が私にとって優先順位が高いんだよね。
　集中して情報を読み込む。周囲の騒ぎがまるで耳に入っていないようだった。
　そこに宮内詠美が駆け寄った。
「蒼、いくよ！」
「……どうしたのよ、急に」
　集中が途切れた蒼は視線を上げた。
「理事長の横暴だよ！　腹が立つし、絶対に許せないよね！」
「まあ、それはね」
「だから、一緒に来て！　理事長の思い通りにはさせない！」
「だから、どこに！？」
　行き先がわからないまま蒼は腕を引っ張られた。

　着いた先で蒼は米俵を目にした。
「これは、なに？」
「三十キロの米俵じゃない」
　当たり前という風に詠美は答えた。蒼は未だに事情がわかっていない。
「どうして米俵が、ここにあるわけ？」
「運ぶためよ。次、私達が挑戦します！」
　詠美は担当の先生、吉田熊吉に向かって声を上げた。
「二人組の女子か。お前達の根性を見てやるぜ」
「望むところです！」
「心の準備が、まだ……」
「格ゲーのようにハートを燃やすのよ！」
　熱い言葉とは裏腹に蒼は嫌そうに米俵へ目をやる。
　――まさかとは思うけど、これを持ってグラウンド一周とかじゃないよね？
　不安そうな目を詠美に向ける。目が合うと勝ち気な表情で笑った。
「私と蒼が組んだら一周なんて余裕だよね」
「やっぱり、そうなんだね」
　ぎこちない笑みを返し、聞かれないように溜息を吐いた。
　蒼は諦めて米俵の端に立った。向かい合わせとなった詠美が先に腰を落とす。
「タイミングを合わせて一気に持ち上げるよ」
「わかった。そのあとはカニ歩きだよね」
「そうね。歩幅を合わせて一気にいくわよ」
　蒼は頷いて目を落とす。
　――ゲーセンのクレーンゲームのように挟んで持ち上げればいいよね。
　掛け声を使って一気に持ち上げた。
　蒼は驚いたような顔になる。
「思っていたよりも軽い？」
「本当にそう。これならいけるよ」
「……でも、急いだ方がいいと思う」
　蒼の慎重な言葉に詠美の表情が引き締まる。
　二人は横向きになって歩き出した。出だしは歩幅が合わなかった。やや詠美が前に出た。
「もう少し速度を落として」
「わかったわ。高さはこれくらいで大丈夫？」
「ちょうどいいよ。あとは同じペースでいこう」
　歩きながら調整を加えた。最初に比べると負担は減った。
　半周を超えた辺りで二人のペースが落ちた。表情は歪み、口数が少なくなった。
　その中、蒼は自身の状態を伝えた。
「重さのせいで握力がヤバイ。足にもきていて、震えているのがわかる」
「私も似たような感じ。それに加えて肩も痛くなってきた」
「ここで休むと、動けなくなる。最悪、米俵を落とすかもしれない」
　蒼は顔を傾けた。流れる汗が目に入るのを阻止した。
　苦しそうな表情で詠美は笑う。
「そうだよね。何回も挑戦できるけれど、一回目で失敗したら次はないと思う。体力的に考えて」
「だから、がんばらないと」
「あの時の水泳のように」
　口にした途端、詠美の目に強い意志が宿る。感じ取った蒼は同じように闘志を燃やす。
「私達に敵はない！」
「私達は無敵よ！」
　蒼と詠美は一呼吸のあと、声を揃えた。
「二人揃えば天下無双！」
　タッグを組んで戦う格闘ゲームの決め台詞に周囲の人々は大いに沸いた。

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