【終業式】課題をクリアして冬休みを死守せよ！｜リアクション

【終業式】課題をクリアして冬休みを死守せよ！

【Ａコース】能力向上テスト
　ホームルームが終わると生徒達は解放感に包まれた。通知表を見せ合い、一喜一憂の表情を見せた。
　それとは対照的に、ここからが本番と意気込む者達は黒板に押し寄せた。貼り出された紙には能力向上テストの内容が書かれていた。真剣な目で読み込み、決まった者から教室を飛び出していった。
　三年二組でも状況は同じで多くの生徒が黒板に集まる。
　運動部に所属する生徒達は一目で行き先を決めた。中には成功を確信して、よっしゃ！　と叫ぶ者もいた。
　佐藤英二は目立たない後方から眺めていた。迷うような目の動きを見せる。
　近くにいた野々ののこは英二の肩をポンと叩いた。
「英二くんはどれにする？」
「どれもハードルが高くて」
「お米を運ぶのはどうかな」
　ののこは踵を上げて指さした。
「僕にとって三十キロの米俵は無茶苦茶ハードだけど……もしかしたらいけるかも」
「それなら私は英二くんを応援するね。英二くん、ファイト―って」
　片手を突き上げてぴょんと跳ねる。
「僕なりに頑張るよ」
　英二はののこの笑顔に照れたような笑みを返した。

１：吉田熊吉の米俵徒競走
　寝子島高校の第一グラウンドに上下のジャージを着た吉田熊吉がいた。計測用のストップウォッチを首から下げて仁王立ちで挑戦者を待つ。
　傍らには米俵が置かれていた。巨漢の熊吉のせいで小ぶりに見える。重さは三十キロで軽いとは言えない。
　腕力に自信のある生徒達は果敢に挑戦した。個々の持ち方で何人かは半周を超えた。その辺りで急激な失速に見舞われ、最後は力尽きたように米俵を落とした。
「このバカタコがっ！」
　その都度、熊吉の一喝がグラウンドに響き渡った。
　出番を待っていた英二は弱々しい笑みを見せた。
　――予想よりも厳しいテストに思える。だからと言ってここで引き下がる訳にはいかない。
　ちらりと一方を見る。ののこは視線に気付いて笑顔で手を振った。
「次はお前か。さっさと始めろ」
「あの、質問があるのですが」
　英二は上目遣いで言った。
「何でも答えてやる」
「道具の使用は書かれていなかったので、ここで使ってもいいですか？」
「台車はダメだぜ」
「もちろん自分の力で運びます」
「わかった。許可してやる」
　踏ん反り返る熊吉に英二は軽く頭を下げた。
　用意した二つの道具は縄の下に差し込む。輪を形成して米俵を自力で縦にした。
　英二はしゃがんで二つの輪に両腕を通し、前屈みになって背負うと一気に立ち上がった。
　見ていた熊吉は声を飛ばす。
「なんだ、それは？」
「友達から借りたベルトです。こうするとリュックみたいになって、小柄な僕でも運べるような気がして」
「見事な作戦だ。よし、行って来い」
　力強い一押しを受けて英二は歩き出した。ふらふらとした足取りではあったが、前を見据えて着実に進んでいった。
「英二くんファイト―！」
　ののこの応援の声が絶えず横から聞こえてきた。英二と一緒になってグラウンドを回る。
　――思っていた以上の重さだ。その影響で身体が左右に振られる。肩に食い込むベルトが痛い。
　でも、足は止められない。野々さんの声が僕に力をくれる。中途半端で終わりたくない。
　米俵に精気を吸い取られているのか。英二の腰と膝が曲がる。顔は汗だくとなり、顎先から滴り落ちた。
　英二は何度も瞬きをした。
「英二くん、まだまだいけるよ！　がんばって！」
　ののこの応援でふらつきが収まる。声を支えにして英二は踏み締めて歩いた。
　半周を超えた。横目でゴールを見て力なく笑った。
　膝に手を当てた。これ以上、曲がらないように力を加えてゴールを目指す。
　――野々さんの、期末試験が芳しくなくて、冬休みに補修を受けることになっても、冬休み廃止は絶対に認めない。
　力を振り絞る。
　――僕がダメでも誰かが、きっと……。

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