【終業式】課題をクリアして冬休みを死守せよ！｜リアクション

【終業式】課題をクリアして冬休みを死守せよ！

　終業式が始まって間もなく、理事長の野々ととおが演台の前に立った。
　生徒達がざわつく中、有沢茉奈の可愛い顔が朱に染まる。唇の一部が不自然に捲れて犬歯が覗き、赤鬼と化した。
　――冬休み廃止とか、ふざけんじゃないよ！　夏休みの時も確か、そんなことを抜かしていたよな？　ニワトリなの？　三歩くらい歩くと忘れる頭なの？
　怒りを含んだ目を理事長に向ける。瞬きをしないで顔を突き出した。
　瞬間、怒りが沸点に達して血走った目に変わった。
　――冬休みの筆頭にクリスマスがあって、他にも恋する乙女にとって重要イベントが目白押しなんだよ！
　思わず拳を固める。溜まる怒りで小刻みに震えた。
　それとは別の想像が茉奈を甘く包み込む。
　――あたしには素敵な彼氏がいるわ。閑野カノンと一緒にクリスマスや大晦日を過ごすのよ。お正月には二人並んでコタツに入って、手や脚が触れたりして。お互いが意識し始めて、それから抱き合うように横になって……。
　グヘヘ、と声が漏れる。現実に戻ると理事長の話は終わっていた。校長の雨宮草太郎は教頭の黒崎俊介に押し遣られ、生徒のスピーチに移行した。
　自ら挙手してマイクを手にする男子がいた。受験生らしく勉強の質について語り、将来の抱負まで話を広げた。
「なげーよ」
　クラスメイトの一言で笑いが起こる。男子は照れ笑いを浮かべて、ようやくマイクを手放した。
　受け取ったフジコ先生は顎先に人差し指を当てた姿でリズミカルに歩く。
　二年一組の生徒を眺めて、そこのあなた、と声を掛けた。
　茉奈は周囲を見てから自身を指さす。
「あたし、ですか？」
「そうよ、子猫ちゃん。その瞳の奥に隠れた想いを語るのよ」
　小指を立て状態でマイクを差し出す。戸惑いながらも受け取ると、フジコ先生は凄味のある笑顔を見せた。
　茉奈はちらりと理事長を目にした。にこやかな顔に歯を剥き、マイクのスイッチを入れた。
　――彼氏との幸せな時間を奪おうとする者にはそれなりの制裁を、って思ったんだけど芸がないよね。スピーチらしさを失わないでやってやろうじゃないの。
　茉奈は立ち上がった。生徒達の目を集めたところでマイクを口に近づけた。
「今年の冬休みの計画を立てている生徒も少なくないと思います」
　その第一声に生徒達が反応する。
「初めての海外旅行だし」
「俺は家でのんびりだな」
「友達と旅行なんだよねー」
　その予定を台無しにしようとする理事長に怒りの目がちらほらと向いた。
　頃合いと思い、茉奈は言葉を続けた。
「あたしには彼氏がいます。寒い冬に負けないハートの熱さで甘い時間を一緒に過ごしたいと思っています」
　口笛を吹かれた。興奮した女子が黄色い声を上げた。
　笑みを浮かべた茉奈は手を振って答える。
「それもあって冬休みに学校に行っている暇なんてないんだよね。彼氏は寝子高じゃないから接点が無くなって、最悪、来年まで会えないなんてことになるかもしれない」
　一旦、言葉を切った。茉奈は大きく息を吸い込む。マイクを握る手に力が加わって指の爪の先が白くなった。
「そんな人の恋路を邪魔する無粋なヤツは大っ嫌いなんだよ！」
　賛同の拍手が沸き起こる。
　その中には茉奈の友人、水上桜が含まれていた。
「ケンカ売りまくりだよ。わからないでもないけど」
　桜は光を通さない目で理事長を見た。冷たい視線に影響を受けたかのように身震いを起こした。
「これで終わります」
　茉奈はすっきりした顔でスピーチを終えた。