六月三番目の日曜に｜リアクション

六月三番目の日曜に

◆危うく忘れそうだったけど

母の日と同じように、島外に住む父へ手紙とプレゼントを送ろうと思い立った恵御納夏朝。
ネコジマスクエアでフェアをやっていると聞いたから、そっちへ買い物に行くことにした。
（良いもの、あるかな？）
なお、危うく忘れそうになっていたのは内緒である。
「お父さんには…シンプルなものがいいかな？」
父の日フェアの商品を見て回りながら、プレゼントの内容を考える。
（父の日だし、白い薔薇の栞とかもあるといいなぁ）
色々な商品が並んでいるだけに、かえってどれがいいか迷ってしまう。
（お父さん……どういうのが好みかな）
無口で無表情、おまけに不器用とあって好みがちょっとわかりづらいのが若干ネック。
予算との兼ね合いもあるし、なかなか難しい。
「変に凝ったものよりは……シンプルな方がいいかな？」
結局、悩んだ末に夏朝が選んだのはシンプルな紺色のネクタイとハンカチだった。
それから、手紙と封筒も。
やはりこういう時は手紙も一緒に、と思うのはよくあることなのだろう。
フェアの中には、お手紙セットや封筒のコーナーも小さいながらにちゃんと存在した。
そこで、小さな猫のイラストが入った素朴な感じのお手紙セットと、大きめの封筒を選ぶ。
喜んでくれるかな、と父親の反応を想像しつつお会計へ向かう夏朝。
その途中、小物のコーナーで白い薔薇の栞を発見。
それも一緒にお買い上げすることにした。
（手紙とプレゼント……一緒に送れるかな？）

買い物を終え、桜花寮へと戻った夏朝。
早速、買ってきたばかりのお手紙セットを使って手紙を書き始めた。
『お父さんへ。（お母さんも）元気かな？　かーさは今日も元気です』
書き出しはこんなところとして、
（今回は何、書こうかな？）
母の日からの一ヶ月、島であったことを思い返す。
寝子島にできた猫カフェを楽しんだ事とか、桜花寮にカビが生えて大変だった事とか……。
そういえば、カビ大量発生の時は母親から送られてきた“日本のお母さんの掃除用具セット”にはお世話になった。
その事を書いておくと、母親も喜んでくれるかもしれない。
但し、セットを装備した夏朝の姿は"日本のお母さん"よりも"暗黒の復讐鬼"とでも呼んだ方がふさわしいものだったことは、本人にも秘密である。
それはさておき。
一度考えが出てくれば、後は筆の進むまま。
「ろっこんのことは秘密にして……」
『“日本のお母さんの掃除用具セット”は、とても役に立ちました。
もうすぐ夏……暑いのは嫌だけど、水泳の授業が今から楽しみ……』

◆拝啓　糞親父

「たく、何で俺が糞親父のためにプレゼント買わなきゃなんないんだか」
ぶつくさ漏らしながらも、望月神無は父の日のプレゼントを探す。
神無本人としては父の日なんて関係ないと思っていたのだが、姉に言われてプレゼントを買うことになったのだ。
「……まぁ、あのおっさん父の日に貰ったプレゼントはちゃんと使ってくれるんだよな」
そう呟いて思い返すのは、昔可愛いキャラクターがプリントされたネクタイをプレゼントした時のこと。
渡した側としては、それは嫌がらせのつもりだった。
だったのだが、貰った当の本人はそうだとは思わなかったのか、あるいはわかっていてもプレゼントだからと思ったのか。
そのネクタイをつけて、仕事をしていたと聞いた。
そんな人に渡すものだから、
（ま、今回は真面目に選んでやるか）
「感謝しろよ、糞親父」
そういう気分になるも自然な話ではあった。
というわけで、神無が向かったのは酒屋コーナー。
「あのおっさん、いつもどういうの飲んでたっけな。ったく、酒ってのは種類が多くて困る」
売り場の人からアドバイスを貰いながら、なるべく旨そうな酒を一本見繕う。
（あ、そういや未成年だけど大丈夫かな俺）
そんな不安もあったりしたが、プレゼント用の郵送ということで無事なんとかなかった。
融通は利かせてもらえるものだ。