六月三番目の日曜に｜リアクション

六月三番目の日曜に

◆父の日の朝、同じ世界に居るあなたへ

（パパにお手紙を書こう）
父の日の朝、夢宮瑠奈はそう決意した。
このご時世、携帯なりパソコンなりといったデジタルデバイスを使ってメールを送るほうが、手紙を書くよりもずっと早い。
そんなことは瑠奈だって承知である。
でも、今はどこか手紙を書きたい気分なのだ。
そんなわけで、まずは文房具店へ便箋を買いに行くことにする。
「どれがいいかなあ……」
便箋と一言で言っても、色やデザイン、種類は色々あるわけで。
それによって、同じ文面でも受ける印象は大なり小なり変化してしまう。
一つ一つ手にとって確かめながら吟味して。
「よしっ。これください！」
瑠奈が選んだのは、五線譜に音符のあしらわれたもの。
それは、彼女の見ている方を指し示すデザインだった。

寮の自室に戻って、机と――正確にはその上に広げた便箋と向き合う。
先に、封筒へDOG110のロゴマークの小さなステッカーを入れておく。ついでというヤツである。
思いの丈をペンに乗せて、つらつらと綴り始める。
『パパへ。
寝子島行きを提案した時、「頑張れ」って伝えてくれたのが、とても昔のことのように思えます。
あのメールはまだ保護されているんだよ。
父の日の前後に、あたしも16歳になるね。
この島の生活はとても楽しいの。気がついたらとんでもないことに巻き込まれてたりもするけど。
でも安心して、危険な事はしないって約束するよ。』
続く文章の前に、一行の空白を。
これは――そう、会話における「間」と同じ。
続く言葉を、あらかじめ大事だと知らせるための空白。
『そういえばあたしね、芸能活動が始まるかもしれないの。
そうしたらパパ、応援してくれる？』
アイドルに憧れ、小さなアイドルグループへとステップアップをしたあの日。
デビューはまだまだだけど、確かに踏み出した新しい世界への道。
自分のきらめきを、見つけ出すための――。
その先にも、まだまだ書くことはある。
寮生活のことや、友達のこと。
寮がカビで溢れかえって大変な目にあったこととか、
家族のようなルームメイトが居ることとか、
友達と一緒にテスト前の一夜漬け勉強会に参加したら、いつの間にか朝になっていたこととか。
そんな日々の色々を、つらつらと書き連ねていく。
そして、最後に。
『ねえパパ。今度は、いつ会えるの？
ルナは、またパパと一緒に笑いあいたいなって思っているの。
もしかして、怒ってるから、会ってくれないの？
ママのこと、もっと話してほしいな』
同じ世界に居るパパへ、彼女からの愛を。
言の葉に乗せて、送り届けられるように。

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