ハッピーバースデー！　１２月☆｜リアクション

ハッピーバースデー！　１２月☆

特上の猫缶持ってきた

　多種多様なお店が軒を連ねるキャットロード。
　その一角に、『space彩菓詩』（すぺーすあやかし）はあった。見た目は落ち着いた喫茶店。その実、人間以外の者たちも出入りする、寝子島の観光案内・交流の場であったりする。
　１２月２１日。
　このspace彩菓詩に、人（猫？）を訊ねて万条花遊がやってきた。
「おーい！　トラ！　誕生日って聞いたから特上の猫缶持ってきたぞ」
　小柄な女性店員、八重トラが目を丸くする。
「あら～、万条さんちの花遊さん？」
　トラは、二十歳程の人間女性の姿をしているが、あやかしの一種、猫又だ。花遊はこのとき人の姿をしていたが、彼女は猫時代からの観察眼と直感で、花遊も自分と同じように猫であることを見抜いていた。
「また来てもらってうれしいです」
「こんな可愛いお姉さんのいる店、常連になってトーゼンだろっ」
　花遊のほうも、トラを猫仲間と思っている。
　花遊はプレゼントの猫缶を、トン、とテーブルに置いて、押しやった。
「もちろん盗んだりはしてないぞ、家にあったやつ。オレの分を特別にプレゼントだ！」
「いいんですか～？」
「もちろんだ！」
　嬉しそうなその顔をみて、花遊の心も弾む。
「ありがとうございます～」
　トラはにこにことプレゼントを受け取った。
「万条さんはお元気ですか？」
「ああ。幸次はこの島のダイガクに行くつもりらしい。だからオレももうしばらくこの島に住めるってことだ」
「それは良かったです～。せっかく知り合いになったのに、お別れじゃあ寂しいですもん」
「トラも家無かったらうち来たらいいぞ」
「またまた～」
「いまさら猫1匹増えたところで大丈夫だと思うぞ、たぶんな」
「ありがたいお話ですけど、やめときますぅ。人間として暮らすのが性に合ってますし、なにより、私のご主人様はひとりなので」
　トラは、ある会社員の女性の飼い猫だったが、飼い主の本社栄転時、彼女の負担にならないようにと自ら脱走し野良猫になった経緯がある。そのご主人のことが忘れられないのだろう。
　花遊は、ちょっぴり残念だった。
　こんな可愛いお姉さんが家にいたらいいのになあ、なんて淡い夢を見ていたからだ。
「やっぱ人間の生活の方がいいのかー。俺もめっちゃ長生きしたらあやかしになれたりするのかなー」
　と、そのとき、店に万条幸次が息切れしながら勢いよく飛び込んで来た。
「はぁ、はぁ……八重さん、花遊が急にどこかに行っちゃって……猫ネットワークで探して……って、いた！？」
「にゃあ！？　なんだ幸次か、急に抱き着いてくるなよ」
「お前っ……勝手に出ていくなって……心配したんだぞ……ぜぇぜえ……」
「うーん、黙って行ったのはちょっと悪かったな……」
　花遊が幸次に「ごめん」と謝ると、幸次は心から安堵した笑みを浮かべた。
　トラはそれを見て、よかったですねぇ、と、少し切なそうに微笑んでいた。