ハッピーバースデー！　１２月☆｜リアクション

ハッピーバースデー！　１２月☆

彼のバースデー、私のハーフバースデー

　１２月１５日。
　早川珪先生の誕生日を祝いたくて、綾辻綾花は手作りのチーズケーキとプレゼントを持って、珪先生のアパートを訪れた。訪問については事前連絡済みだったので、珪先生も待っていてくれたらしい。部屋はキレイに片付いていて、テーブルには花まで置いてあった。
「珪先生、誕生日おめでとうございます」
　心をこめて選んだプレゼントを珪先生に手渡す。
「ありがとう。開けても？」
「はい……」
　珪先生の綺麗な指が、包みをあけてゆく。
　綾花はドキドキが止まらない。気に入ってもらえるだろうか。ううん、きっと大丈夫なはず……。
「お、ワインオープナーだ。いいね」
　珪先生が破顔する。それは、アンティーク風なソムリエナイフ型のワインオープナーで、本体に『K.HAYAKAWA』の名前が刻んである１点モノだ。開けた後一気に呑めないときの保存用に、黒猫型のシリコン製ボトルストッパーもいっしょに添えた。
「うん、いい。気に入ったよ。ありがとう」
「珪先生を想い浮かべながら選んだんです。つるぎさんにも選ぶの手伝ってもらったんですよ」
「近頃、仲がいいんだね」
「そうなんです、よくしてもらって」
　珪先生のことを喋れる貴重な相手ですから、という言葉は飲み込む。
「ワインオープナー、使ってもらえたら嬉しいです」
「うん。じゃあさっそく」
　珪先生はワインを取ってくる。その間に、綾花はケーキを綺麗に切り分ける。
「ああ、使いやすいね」
　珪先生はコルク栓を抜くと、満足そうにワインオープナーを眺め見た。
　それからふたりは、ワインとジュースで乾杯した。
　チーズケーキの味の感想を聞くまで、プレゼントを開けてもらうときと同じくらいドキドキしたが、
「うん、美味しい。お店の味に勝るとも劣らないよ」
　という賛辞を貰ってホッとする。
「良かったです……これからも珪先生にいっぱいの幸せが訪れますように」
「ありがとう。実は今日来るって連絡を貰ってから、僕もプレゼントを用意していたんだ」
「私に、ですか？　どうして……？」
「綾辻さんの誕生日、たしか６月９日だったよね。ハーフバースデー、おめでとう」
　手渡された珪先生からのプレゼントは、森の香りのアロマミストだった。
「本好きの綾辻さんには、紙の香りというか、木の香りが似合いそうな気がしてね」
　ガラス瓶に入ったアロマミストには、もみの木のラベルがついている。
　綾花は、手首にしゅっとひと吹き、スプレーしてみた。
　森林の中にいるような澄んだ香りが、香水よりも優しく仄かに香ってきて、ゆったりした気分になる。
「私も祝ってもらえると思ってなくて……びっくりしました。有り難うございます」
「寝るときに使うのもリラックスできていいよ」
「寝るときに……」
　珪先生からもらった香りに包まれて眠りにつけたなら、毎日いい夢を見られそうだ。
　綾花はアロマミストの瓶を、両手できゅっと抱きしめた。
「大切にしますね、珪先生」