ハッピーバースデー！　１２月☆｜リアクション

ハッピーバースデー！　１２月☆

冬の恋人たち

　緋紅朱赫乃の誕生日は１２月３１日、大みそかだ。
　その数日前、クリスマス前後のある日、赫乃と朝比奈岳人は本土の駅で待ち合わせていた。
　岳人の大学進学後は、メールや電話でのやりとりが主だったので、久々の直接会ってデートだ。
　駅で待つ赫乃はおめかしして、サンタをイメージした、膝丈の赤と白のワンピース姿だった。赫乃にしては精いっぱい勇気を出した丈の短さだ。電車がついて、改札から多くの人が流れ出てくる。その中に岳人の姿を見つけて、赫乃は控えめに手を振った。
　岳人は、赫乃を一目見た途端に、その可愛らしいいでたちに目を奪われた。
　剣道を嗜み、真面目な岳人は、こういうときはまっすぐ褒めるのが当たり前だと思っている節がある。
「久しぶり。かわいいな」
「会えてうれしい、です。かわいい、ですか？」
　赫乃は上目遣いで岳人を見上げる。
　その仕草にどきっとして、岳人は戸惑いぎみに明後日をみた。
「よく似合っているぞ」
　がんばっておめかししてきてよかった。褒めてもらえて嬉しくて、赫乃は花開くように頬をバラ色に染める。

　赫乃といえば花、という印象が、岳人にもあった。
　ふたりは岳人の案内で、新宿御苑へと向かった。明治時代に皇室庭園として誕生した東京でも有数の植物園と大温室がある。花が大好きでアレンジメントも作る赫乃なら絶対に喜びそうなデート先だ。
「緋紅朱さんに、大温室を見せたかったんだ」
　大温室は、クリスマスに合わせたポインセチアの展示が見ごろで、赤やピンク、白などの花々が咲き乱れている。新宿御苑作出だという洋ランの一種、パフィオペディルムシンジュクも咲いていて、赫乃の興味は尽きない。
「パフィオペディルムは、『ヴィーナスのスリッパ』という、意味、だそうです。ギリシア語で、パフィオがヴィーナス。ペディルムが、スリッパ」
　冬の花のことや、洋ランに関する知識を披露する赫乃は本当に楽し気で、岳人はつられるようにあれこれ質問してしまう。
「本当だ。花びらが袋みたいになっていて、スリッパに似ている。緋紅朱さん、あっちの花は？」
　楽しい。そう感じて、ふいに、岳人は自分の変化に気づいた。
（彼女が好きなものを、いつのまにか俺も好きになっている……花を美しいって思う自分がいる）
　それは、自分にとって好ましい変化に思えた。
　誰かを好きになって、自分が変わる。
　それこそが恋の醍醐味じゃあないだろうか。

　大温室を堪能したあと、お腹がすいてきたふたりは、近くのファーストフード店に立ち寄った。
「どうやって頼めば……」
　ファーストフード慣れしていない赫乃はポテトを頼むだけでもドキドキだ。
　岳人にも助けてもらって注文し、窓際の席でポテトを摘まんで雑談する。
　学校のこと、最近の出来事……話は尽きることがない。
　その間、赫乃は１本ずつポテトを摘まんで、リスみたいに先っぽからちょっとずつ齧っていた。
　その仕草が可愛らしくて、岳人は思わず魅入ってしまう。
「どうしました？　朝比奈先輩」
「あ、いや……」
　４人兄弟の末っ子で姉３人という岳人は、道場を営む実家で、性格や暮らしぶりや腕前が”強い”姉たちに囲まれて生きてきた。だから赫乃のおっとりとした仕草は、岳人にとっては新鮮で、惹かれて仕方ないのだ。

　帰りは寮まで送るよ、と岳人は言った。
　姉たちとは違う、たおやかで可憐な赫乃をひとり帰す気にはなれなかった。それに少しでも長く一緒にいたい気持ちもあった。
　寮の前についたところで、岳人は寝子島駅ロッカーに預けておいた包みを渡した。
「緋紅朱さん。少し早いけれど、誕生日のお祝い、だ」
　去年は猫の耳がついたものだったが、今年は兎の耳がついたもこもこふわふわのパーカーだ。
「去年は店員に聞き決めたけど、今年は自分で選んだ、から」
「大切にします、朝比奈先輩」
　赫乃はプレゼントを大切そうに胸に抱きしめる。
「私も、先輩に、プレゼントがある、んです……」
　赫乃が岳人に渡したのは、寮の薔薇園から採取した薔薇のエキスを混ぜ込んだ自作の石鹸だった。
「以前、この香りが、好きだって……いってた、から。同じ香りの、する、石鹸、作りました……どうぞ」
「ありがとう。……誕生日おめでとう、緋紅朱さん」
　岳人はプレゼントを受け取って、赫乃をそっと抱きしめた。

　その夜、ふたりはいつものようにメールのやりとりをした。
《一日があっという間だった。年明けにも会おう》
　岳人からのメッセージに、赫乃は返信する。
《こうして、毎年お互いの誕生日を祝い合えるようになれるといいですね》
　赫乃の身体からは、岳人にプレゼントしたのと同じ薔薇の石鹸の香りがする。
　身にまとっているのは、ふわもこの兎耳のパーカー。
　その温かさに岳人のことを思い出して――……、

　赫乃は幸せな気持ちで眠りにつく。

＜了＞

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あとがき

担当マスター：笈地行
ファンレターはマスターページから！

ご参加ありがとうございます。笈地です。
１２月が誕生日のみなさん、おめでとうございます。
６月が誕生日のみなさんも、ハーフバースデーおめでとうございます。

１０年以上らっかみ！で書かせていただいてきて、
バースデーシナリオを担当したことがなかったので
今回は「やりたい！」と立候補して書かせていただきました。

お久しぶりの方にもたくさんお会いできてうれしかったです。お元気でしたか？
ＮＰＣもたくさんお祝いしていただいて、彼らに代わってお礼を言わせてください。

おめでとうございます！
ありがとうございます！

それではまた別のシナリオでお会いしましょう。笈地でした。

（運営部より）
キャラクターの年齢加算は、後日らっかみ！タイムの移行とともに行われます。しばらくお待ちくださいませ。

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