Ｊｕｎｏの花嫁｜リアクション

Ｊｕｎｏの花嫁

【咲き誇る牡丹とともに】

　手をつないで傘をさし、添木牡丹と戌井創は教会へやって来た。
「あら、いつのまにか雨もやんでいたんですねぇ。てるてるぼうずを作ったかいがありました～」
　笑顔をみせる牡丹に、創もにこっと笑ってみせた。
「今日は素敵な写真を撮ろうね、ぼたん先輩♪」
　教会では、シスターやスタッフに挨拶をし、二人はそれぞれの衣装を選ぶために控え室へと向かった。

「ん～っとぉ、衣装はどれにしましょう……」
　ずらりと並ぶウェディングドレスを前に、牡丹は悩んでいた。
　豊かなバストもきちんとおさまるサイズのドレスを探さなくてはならない。
「……あっ、これ。これがいいですぅ～！」
　スタッフにも手伝ってもらって、牡丹が選んだのは、白いマーメイドラインのドレスだった。
　ドレスを身にまとうと、鏡に映るのは挙式をひかえた花嫁そのものだ。
　白いドレスが、牡丹の黒髪によく映えた。
「きれいな花嫁さんね。次はメイクをしましょう」
　スタッフに連れられてメイクルームに移動すると、牡丹はこうリクエストした。
「あのぅ、できれば大人っぽくお願いします……」
　創に少しでも美しい姿を見て欲しいという牡丹の願いを、スタッフはこころよく受け止めた。
　支度を終えると、緋紅朱赫乃が用意したのだという牡丹のブーケを両手に持った。
　牡丹の花期はやや過ぎているけれど、運良く用意できたのだという。
　牡丹の名前と同じ名を持つ花のブーケは、彼女にとてもよく似合っていた。

　先に着替えを終えた創は、鏡に映るタキシード姿の自分を見て、落ち着かない思いをしていた。
「わぅ……、こ、これは偽物。偽物の衣装に、偽物の結婚式だから……」
　そう自分に言い聞かせようとしても、どうしても本物の新郎のように緊張してしまう。
　創と牡丹は、本物の挙式になぞらえた撮影を希望したため、創は先に式場で牡丹が来るのを待つこととなった。
　そわそわする創のもとへ、とうとう牡丹がやって来る――。

「ぼたん、先輩……」
　恥ずかしそうに頬を染めて、おずおずと姿を現した牡丹は、夢のように綺麗だった。
「その……、どうですか？　変じゃないかなぁ……？」
　問いかける牡丹に、真っ赤な顔をして創はうなずいた。
「ぼたん先輩、すごく、すっごーく、綺麗だよっ！」
「よかったぁ」
　牡丹は創に、そっと指輪を差し出した。
「創君……、あのぅ、この指輪をつけてもらってもいいですか……？」
「えっ、これ？」
「そのぅ、ひそかにバイトして買った、おそろいの指輪なんです。安物だけど……。ダメ、かなぁ？」
　指輪を持つ牡丹の手を握りしめて、創はにっこり笑顔でお礼を言った。
「ぼたん先輩、ありがとう！　なんだか本物の結婚式みたいだね～！」
　指輪を受け取ると、創は深呼吸して、牡丹に手を差しのべた。
「えへへ、いこっか♪」
　ここから手をつないで、撮影場所の神父の前へ、二人で歩くのだ。

　どきどきと跳ねる心臓の音を聞きながら、手をつないで礼拝堂の真ん中を進んでいく。
　カメラや照明に囲まれていても、不思議とあまり視界には入ってこなかった。
　形ばかりの神父の話し声も耳に入ってこなかったけれど、牡丹が誓いの言葉を口にするのはすんなり耳に飛び込んでくる。
「……はい、誓います」
「僕も誓います……。ぼたん先輩、すごく綺麗……」
　赤い顔の牡丹に誓いのキスをしながら、自分の顔も赤いにちがいないと、創は思った。

　ヴァージンロードの帰り道は、頑張って牡丹をお姫様抱っこして歩いた。
「ぼたん先輩、このまま少し、外を歩こうよ」
　薔薇の咲き誇る庭園に出ると、空には晴れ間が広がっていた。
「ふわぁ！　すごく綺麗な青空！」
　えへへ、と笑う牡丹の表情がまぶしくて、創も一緒に笑ってしまった。
「さっき虹が出てたんだって～。もう出てないのかなぁ？」
「見当たりませんねぇ……。けど、こんな青空の下を素敵な格好で歩けるなんて、夢みたいですぅ～」
「僕も夢みたいだよ……。ぼたん先輩と一緒だからかなぁ」
「そんなこと言われたら、照れちゃいますよう！」
「薔薇のいい香りがするよね～。でも、薔薇が目に入ってこないくらい、ぼたん先輩、綺麗……」
「創君……」
　見つめ合う二人の顔は、どちらも赤くて、輝いていた。
「こうしてると、本当に結婚したみたい……だよねぇ」
　創は笑って、牡丹を真正面から抱きしめた。
「えへへ、『本番』のときも、頑張ろうねっ♪」
　牡丹も、静かにこくりとうなずいた。
「……よろしくね。未来の旦那様♪」
　誓いのキスよりももっと長い、真心のこもったキスを、薔薇の香りが包んでいた。

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