ミラーボールな夜｜リアクション

ミラーボールな夜

【それぞれの夜】

　特製サンマさんカレーを、ふたりでいただきます。桜と匠は、お食事会の賑やかな喧噪からは少し離れたすみっこの席に座って、ふたりっきり。
「あ、美味い。サンマの蒲焼きとカレー、案外合うんだね」
「一見ミスマッチだけど、食べてみたらいけるわね」
　時にお味の感想に盛り上がり、時に見つめ合いました。
「で、寝子高を見学してみた感想はどう？」
「マタ工とは大違いだなあ。校舎が綺麗っていうのもあるけど、先生も生徒も穏やかな人が多いよね。うちは荒っぽいのばかり目に付いてさ……」
「あはは、苦労してるなー」
　彼が同じ寝子高生だったら？　考えることもあります。きっと授業の合間は休み時間のたびに会いに行くし、お昼休みはいっしょにお弁当を食べるだろうし、放課後はいっしょに部活に励むのだろうし。ずうっとべったりなことでしょう。
　けれど……学校が違うからこそ、というのもあるかもしれません。いつもは離れているからこそ、こうして出会える時間は稀少で、輝いて思えるのでしょう。だからこそ彼と過ごす一瞬一瞬が劇的で、新鮮なのでしょう。
「匠と同じ学校だったら、って思ったりもするけど……」
「するけど？」
「今はこれでいいかな。けっこう満足」
「うん。そうだね」
　彼の手のひらがそっと、桜の手を包み込みます。気持ちが通じ合っていると確認できて、なんだかぽわぽわ、舞い上がるような気分。

「いやあ、あっちもラブラブだね～」
　茉奈とカノンも食堂で夕食をば。カウンター席に並んで座って、
「いただきまーす！」
「いただきます！　で、誰がラブラブなの？」
「桜がね。手なんて握っちゃってさ～」
　他人のコイバナ大好き、その相手がかけがえない友人ならば、もう応援するしか！　推すしか！
　なのですけれど、茉奈だって恋愛まっしぐら、まさしくその真っ最中です。隣を見ればしゃらら～ん、と鈴鳴りが聞こえそうなイケメンがおりまして。
「むっふっふ～」
「ご機嫌だね、茉奈」
「だ～って、幸せなんだもん♪」
　大切な友だちも、自分も、素敵な恋人とラブラブ！　イチャイチャ！　茉奈にとって、こんなに嬉しいことはありません。
「幸せはいいけど、食べないとカレーが冷めちゃうよ」
「あはは、そうだね。食べよ、食べよ。ん……美味しー♪」
「うん、美味いよね。あっ」
　ふと、カノンの指が茉奈の顔へひょいと伸びて、
「ごはんつぶ。ついてるよ」
「え、うそ？　やだもう、恥ずかしいーっ！」
　彼は顔を赤くする茉奈を眺めてほんのり笑むと、それをぱくりと口に入れました。

　武道場。今は参加者たちも食堂へ移動し、窓の外には静かな夜が訪れようとしているところです。
「さあて。どうだい、旦那」
　時治郎の瞳は相変わらずギラついて、しかしそれ以上に今は、剣呑な光を帯びて見えました。
「映画のあやかしどもの活躍には昂った。飯食って腹も満たした。チャンバラも見ているばかりじゃ物足りねえ……ひとつ、手合わせといこうじゃねえか」
「なるほどねえ。ま、約束していたものな」
　一見物腰穏やかな道哉も、時治郎のまなざしに怯むそぶりはありません。
「『猫又の素早さ、身のこなし。ほころびの光の能力もある。私も強いよ』……だったか？」
「言うは易し、さ。その目で、剣で確かめるといい」
「はは。期待させてくれるぜ」
　時治郎の手には木刀二本。いっぽうを道哉へ投げ渡すと、双方構え、いざ尋常に、勝負！

「いくぜえ！！」

「かかっておいで」
　仕掛け始めは時治郎。踏み込み瞬時に肉薄、鋭利な突きを一閃！　『梓式古流剣術』の粋たる刺突技は道哉の頬をかすめ、
「っ。さすがに鋭いな……！」
　反撃に二の足を踏ませます。
　逃すまいとさらに踏み込む時治郎、道哉のガードを削り取るように突きの連撃で攻め立てます。彼の剣術はまさしく実戦に即した殺人技であり、少しでも気を抜けば刃が胸を貫くでしょう。
「こいつを凌ぐか、なかなかの機敏だな！　だが防戦一方じゃねえか？」
「なあに。逃げているばかりじゃないさ……！」
　道哉の身のこなしは技術というより天性のもの。加えて彼には妖怪なりの能力がありました。
「……そこだ！」
　『ほころびの光』にて見い出した一瞬の隙、足元へ転げるようにして繰り出した一振りは低く鋭く、時治郎は思わず飛び退ります。
「うおっ！？　そう来やがるか、今のは危なかったぜ」
「ううむ、しかし避けられちゃあ仕方がないなあ」
「だがまだまだ、それで終わりじゃあねえだろう？」
「そうだね。伝説の『人喰い』にひと太刀でも、浴びせてやりたいもんだ」
「やってみな、年経た猫又さんよ！」
　一合、二合と斬り結び、上から横から、あるいは下からと太刀筋は乱舞し、そのスピードときたら目にも止まらぬほど。
　退けば追い、追えば退く。一進一退の剣戟は星が空を照らすまで続き……最後の一撃は、
「……紙一重、だな」
「なんの。負けは負けさ」
「だが、気持ちのよい勝負だった。感謝する」
　交差する剣先、道哉のそれは空を薙ぎ、彼の喉元へぴたり据えられた時治郎の突きが、勝利の証となりました。

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ミラーボールな夜

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